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高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み 第9回

デザインの概念は新たな局面へ

問題はあえて解決しない、2016年重要ワード「スペキュラティヴ・デザイン」とは

2016年01月12日 09時00分更新

文● 高橋幸治、編集●ASCII.jp

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問題解決より、問題提起を重要視するスペキュラティヴ・デザイン

 著者のアンソニー・ダンとフィオーナ・レイビーはイギリスの「英国王立芸術大学院(Royal College of Art)」のデザイン・インタラクティブ学科において昨年まで教鞭をとっていた元教授で、今回のテーマである“スペキュラティヴ・デザイン”の代表的な提唱者である。まずは両氏により“スペキュラティヴ・デザイン”の定義にあたる部分を引用しておこう。すべてを抜き出すとあまりにも長くなるので、意味が通る範囲で何ヵ所か途中を省略した。

Image from Amazon.co.jp
待望の日本語訳が出版されたばかりの「スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。-未来を思索するためにデザインができること」(ビー・エヌ・エヌ新社)

 “デザインと聞くと、ほとんどの人は問題解決のためのデザインを思い浮かべる。(中略)デザイナーたちは、人口過剰、水不足、気候変動といった難題を力を合わせて解決したいという衝動に駆られている。まるでそういう問題を細分化し、定量化して、解決できる、とでもいわんばかりに。(中略)しかし、現代の我々が直面する課題の多くは解決不能であり、これらを克服するためには、人々の価値観、信念、考え方、行動を変えるしか手はないことは明らかだろう。(中略)
 しかし、すべてをあきらめるのは早い。デザインには別の可能性がある。デザインを、物事の可能性を“思索”〔speculate〕するための手段として用いるものだ。これがスペキュラティヴ・デザイン〔speculative design〕である。「スペキュラティヴ・デザイン」は、想像力を駆使して、「厄介な問題〔wicked problem〕」に対する新しい見方を切り開く。従来とは違うあり方について話し合ったり討論したりする場を生み出し、人々が自由自在に想像を巡らせられるよう刺激する。スペキュラティヴ・デザインは、人間と現実との関係性を全体的に定義し直すための仲介役となるのだ。”

 「speculative」という単語は「思索的な」とか「推論的な」とか「投機的な」といった意味であり、本書の副題にもなっている通り、スペキュラティヴ・デザインは「問題解決」よりも「問題提起」を重視する。

 問題解決はそれがいくら付け焼き刃なものであっても即効性があるように見えるし、効率や合理を重視する世界にあっては、前進であり進歩であり「善」である。逆に、問題を過度に時間をかけて眺め回すことは、時間の無駄であり労力の浪費であり「悪」である

 しかし、結論を急ぐことが後々さらなる問題を発生させる元凶になることも少なからずあって、私たちを取り巻く諸々の課題も、既存の思考パターンや認識フレームではとらえきれない類のものが増えている。問題と思われていないものに実は問題が潜んでいたり、問題と思われていないこと自体が問題の根本だったりすることがあるのではないか?

(次ページでは、「倫理や道徳を考え直すべき時期がもうすぐやってくる」)

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