Amazonログイン&ペイメントに先駆け、楽天は2008年から「楽天ID決済」を提供、すでに3000社を超えるECサイトで導入されている。2015年12月25日、楽天は記者発表会を開き、新たに4社のショッピングカートASPが楽天ID決済に対応することを発表した。
楽天ID決済は楽天ポイントを貯めて使える
新たに楽天ID決済に対応するのは、フューチャーショップ「FutureShop2」、テモナ「たまごリピート」、GMOメイクショップ「MakeShop」、GMOペパボ「カラミーショップ」、の4社。2016年以降※1、決済オプションとして楽天ID決済を順次追加する。これまでの5社※2に加え、計9社になることで、10万以上のECサイトで楽天ID決済が利用できる環境が整うことになる。
※1:楽天ID決済導入時期
先行受付開始 | 正式提供開始 | |
---|---|---|
FutureShop2 | 1月6日 | 2月2日 |
たまごリピート | 2月1日 | 3月1日 |
MakeShop | 未定 | |
カラミーショップ | 未定 |
※2:Eストアー「ショップサーブ」、おちゃのこネット「おちゃのこネット」、ハンズ「e-shopsカート2」、アイ・ドゥコミュニケーションズ「eShop-do」、前向きネット「ジョイカート」
楽天ID決済は、楽天市場以外のサイト(自社サイト)で、楽天会員IDを使って決済ができるサービスだ。大きな特徴は、楽天スーパーポイントに対応していること。お客が楽天ID決済を選ぶと、楽天市場以外のサイトでも楽天スーパーポイントが付与される。楽天の矢澤俊介執行役員は、「『簡単・安心』だけなら他のサービスにも言えるかもしれないが、『お得』なのが我々の一番の強みだ」と強調する。
記者発表後のパネルディスカッションでは、各社の代表者らが、「採用企業の売上拡大に寄与できるのではないか」(テモナの佐川隼人代表取締役社長)、「ECサイトにとって決済手段が多いことは重要」(フューチャーショップの星野裕子代表取締役)と期待感を表明した。楽天ID決済を2015年から導入しているEストアーの細野純子執行役員によると、楽天ID決済は「(自社サイトで初めて商品を購入する)消費者の心理的なハードルを下げる」効果もあるという。
楽天ID決済の懸念と期待
楽天に出店している店舗が自社サイトでも楽天ID決済を導入すると、カニバリズムが懸念される。楽天の鈴木壮弥・チェックアウト事業副事業長は、「自社サイトに楽天ID決済を導入して、かつ楽天市場に出店している企業も数社あるが、売上動向の下落や購入者の重複はほとんどなく、両方のサイトが伸びている」と懸念を払拭した。
楽天ID決済はセキュリティ面でも期待されている。お客のクレジットカード情報を保有することは、事業者が漏えいリスクを抱えることになり、漏えいを防ぐには非常にコストがかかる。お客も、クレジットカード情報をECサイトごとに登録するのは手間であり、初めて利用するサイトの場合は躊躇してしまうこともある。
楽天ID決済なら、クレジットカード情報を事業者が保有する必要はなく、お客もあちこちにクレジットカード情報を登録する必要がない。楽天の高橋理人常務執行役員は「楽天ID決済を普及させることで、ネット犯罪を減らすことにもつながれば」と話す。
楽天ID決済とAmazonログイン&ペイメント
楽天ID決済と類似するAmazonログイン&ペイメントのサービス内容を比較したのが以下の表だ。
楽天ID決済 | Amazonログイン&ペイメント | |
---|---|---|
モールへの出店 | 不要 | 不要 |
購入者メールアドレスの取得 | 不可 | 可(承認制) |
その他の購入者属性情報の取得 | 不可 | 不可 |
審査 | 最短5営業日 | 約1週間 |
不正購入に対する保証 | 検討中 | マーケットプレイス保証 |
購買履歴の自社マーケティング活用 | 未定 | 購買データは取得していない |
決済手数料 | 5% | 非公開(米国では2.9% + $0.30) |
ポイント | 貯める・使うともに可 | 非対応 |
ショッピングカートASP | MakeShop、カラミーショップ、FutureShop2、たまごリピート、ショップサーブ、おちゃのこネット、e-shopsカート2、eShop-do、ジョイカート | ecbeing、iplogic、Magento.FLATz、Future Shop2、FRACTA |
多くのショッピングカートASPに対応している楽天ID決済は導入障壁が低く、累計1億人を超える楽天会員が自社ECサイトで決済できるのは魅力的だろう。ただし、お客に還元する楽天スーパーポイント分(1%)は事業者側の負担となる。高橋常務執行役員は、「自社サイトでも楽天IDを使えるのは、サイトの満足度向上につながるはず」と、楽天ID決済の効果を説く。
※ ※ ※
ECショップやショッピングカートASPにとって、楽天ID決済などのID型決済代行サービスは、クレジットカードと同様に「いずれか1社に対応していればよい」というわけではない。しかし、ECサイトの運営事業者からすると、サービスと手数料が見合うのか、負担は大きくないか、見極めたいというのが本音だ。楽天が今回の発表でサービスを強化したことで、今後はID型決済代行サービス同士の比較検討も進むだろう。ID型決済代行サービス提供者側が、どこまでユーザーや事業者に寄り添えるかが試されることになる。