今年3月に、下り最大225Mbpsの通信速度を実現する通信サービス「PREMIUM 4G」を開始したドコモ。iPhone 6sシリーズ向けの下り最大262.5Mbpsに続き、10月29日にはPREMIUM 4Gの通信速度が下り最大300Mbpsにまで向上している。1年も経過しないうちに、PREMIUM 4Gは75Mbps分もの高速化を実現しているのだ。
しかしなぜ、ドコモはこれだけの高速化を国内で先駆けて実現できたのだろうか。そして、最大300Mbpsの通信速度を実現した今、さらなる高速化に向けどのような取り組みを進めているのだろうか。ドコモのネットワーク部 技術企画部門 通信網企画担当課長である尾崎康征氏に話を聞いた。
3つの周波数帯を束ねるキャリアアグリゲーションで
一層の高速化を実現
PREMIUM 4Gは「真の4G」と言うべき通信技術「LTE-Advanced」を用いたドコモの高速通信サービスだ。複数の周波数帯の電波を束ねることで帯域幅を広げて高速化する「キャリアアグリゲーション」(CA)だけでなく、ひとつの基地局で複数の無線装置を集中制御することで、広いエリアをカバーする基地局(マクロセル)と狭いエリアをカバーする基地局(スモールセル)から発する電波を、ユーザーの環境に応じ適切な形でCAさせる「高度化C-RAN」という技術を用いることにより、高速かつ安定した通信環境を実現できるのが大きなポイントとなっている。
そのPREMIUM 4Gは9月のiPhone 6s/6s Plusの発売に合わせて、受信時最大262.5Mbpsに高速化。さらにAndroid側も10月29日には全国410都市で受信時受信時最大300Mbpsの通信速度を実現し、それに対応するスマホ「AQUOS ZETA SH-01H」も発売されている。では一体、300Mbpsもの高速化はどのようにして可能になったのだろうか。尾崎氏によると「その理由はCAにある」とのことだ。
従来のCAは、2つの異なる周波数帯域の電波を束ねることで、帯域幅を広げて高速化を実現していた。iPhone 6s/6s Plusでの高速化も、帯域幅が広い1.7GHz帯(東名阪のみ)を用いるという違いがあるとはいえ、2つの周波数帯を束ねるという点は変わっていない。だが、今回登場した「AQUOS ZETA SH-01H」と「Wi-Fi STATION N-01H」で対応している受信時最大300Mbpsの実現にあたっては、さらにもうひとつ電波を増やし、3つの異なる周波数帯の電波をCAする(3CC CA)ことで、一層の高速化を実現しているのだ。ちなみに3CC CAで実際に使用している電波は、800MHz帯と2GHz帯、そして1.5GHz帯の3つになる。
3CC CAは移動体通信技術の標準化団体「3GPP」で定められている技術だが、「3CC CAを実現するには、ネットワークと端末、双方の対応が必要になってくる」と尾崎氏が話すとおり、3つの電波を束ねて高速化するにはさまざまな準備が必要となってくる。3CC CA対応の端末を開発する必要があるのはもちろん、基地局側も3つの周波数帯に対応する必要があることから、すべての準備を整えるには時間がかかるという。
それでもなおドコモが国内で初めて3CC CAを実現できたのは、同社のR&Dセンターで通信技術の基礎研究を進め、3GPPでの標準化にも大きく携わることによって、標準化後の早い段階で基地局整備や端末開発などが進められることが大きいと、尾崎氏は話している。実際ドコモはこれまでにも、3Gの通信方式であるW-CDMAや、現在使われているLTE、LTE-Advancedの標準化に大きな役割を果たしている。そうした研究段階からの取り組みが、3CC CAの早期実現に結び付いているようだ。
3つの周波数帯を用いることで
混雑した状態でも効率よく通信
3CC CAによる恩恵は高速化だけではない。とくに最近、都市部ではスマホの利用が急速に増えたことから、朝夕の通勤時間帯などに通勤電車の路線沿線で速度低下が発生するなどの問題が起きている。そうした問題を解消する上でも、3CC CAは大きく役立つのだ。
なぜ3CC CAが混雑解消に役立つのかというと「CAによる周波数帯の組み合わせが増えるため」だと尾崎氏は説明している。先にも触れた通り、ドコモはおもに4つの周波数を運用していることから、CAの組み合わせが増えれば増えるほど周波数帯の空きを効率よく活用でき、混雑時の通信速度低下を防ぐことができるのだ。3CC CA対応機種では3つの周波数帯を用いることから、従来のCAよりも多くの帯域に負荷を分散できるのである。
だが3CC CAでは、高速通信用の1.5GHz帯に加え、ベースバンドとしてマクロセルに用いられる800MHz帯と2GHz帯も同時にCAする必要がある。マクロセルはカバーする範囲が広いことから、マクロセル同士のエリアが重なり合うと電波干渉を起こし、速度低下が懸念されるところだ。だが、尾崎氏によると基地局のさまざまなパラメーターを微調整するなど、現場の熟練された「職人技」によって干渉を減らす取り組みがなされており、速度低下は起こりにくいのだという。
3CC CA対応のエリアは現在、東名阪の中心部、とくに利用の集中するエリアを主体に展開。東名阪以外のエリア整備も急ピッチで進められており、今年度末まで全国900都市以上の整備が進むPREMIUM 4G対応エリアのうち、受信時最大300Mbpsの対応エリアは640都市にまで拡大する予定だと、尾崎氏は話している。
3.5GHz帯、5G……
Gbpsクラスに準備が進められる通信速度の高速化
3CC CAで受信時最大300Mbpsを実現したドコモだが、今後もさらなる通信速度の向上を目指すという。そして、来年度に予定されているのが3.5GHz帯の電波を用いた、受信時最大370Mbpsの実現である。
3.5GHz帯は昨年ドコモに割り当てられた帯域で、40MHzもの帯域幅を持つ。これを既存の帯域の電波とCAすることで、一層の高速化が実現できるわけだ。
しかしながら、3.5GHz帯は従来より高い周波数帯であり、直進性が強いため建物などに遮られやすく、回り込みにくいという弱点がある。それゆえ尾崎氏によると、3.5GHz帯は一部見通しの広いエリアでマクロセル用に活用されることもあるものの、スモールセルで都市部の通信容量を高めるために用いることが主体となるそうだ。
そしてもうひとつ、この3.5GHz帯で提供されるのは、上りと下りとで異なる周波数帯を用いて通信するFDD(周波数分割多重)方式のLTEではなく、短い時間で上りと下りを交互に切り替えて通信するTDD(時分割多重)方式のLTE(TD-LTE)となる。通信方式こそ同じだが仕組みが異なるだけに、従来のLTEとTD-LTEとのCAは実績も少なく難しさがともなう。それゆえ尾崎氏も「初の試みだけに、気を引き締めて進めていきたい」と話している。
尾崎氏によると、3.5GHz帯の活用による高速化の後は、複数のアンテナを活用する技術である「MIMO」の高度化や、CAで束ねる電波を4つ、5つに増やすなどの方法で高速化を実現していくとのこと。さらにその後に控えているのが「5G」だ。
5Gはその名前の通り、PREMIUM 4Gの次の世代となる通信方式。10Gbps以上の通信速度を実現するなど高いスペックの実現を目指して、現在標準化が進められているものだ。ドコモでは、東京五輪が実施される2020年の商用サービスを実現するべく5Gの研究を積極的に進めているそうで「これまではどちらかというと、5Gをどのようなやり方で実現するかという実験が多かった。だが現在は、車での移動や人混みの中など、実環境での利用を想定した検証を進めている段階」と、尾崎氏は話している。
2020年には5Gのサービスを提供に
しかしながら5Gでは、これまでとは次元が異なる高い目標を達成する必要があるのに加え、高速通信を実現するべく3.5GHz帯より高い周波数を活用することが想定されており、研究を進める上でも難しさがあるという。だが、尾崎氏は「2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催される年なので、何かしらの形で5Gの通信環境を世界にアピールできれば」と、5Gのすべての要素を含まないまでも、2020年に何らかの形で5Gのサービスを実現したい考えを示している。
受信時最大300Mbpsの通信速度の実現だけなく、2020年の5Gに向けた取り組みも積極的に進めているドコモ。今後の通信インフラの高度化に向けた取り組みが、大いに注目されるところだ。
提供:NTTドコモ