このページの本文へ

前へ 1 2 3 次へ

『角川インターネット講座』(全15巻)応援企画 第8回

『角川インターネット講座』シリーズ総監修者インタビュー

「壁をどんどん壊していってもらいたい」インターネットの父と呼ばれて~村井純氏

2015年11月28日 18時00分更新

文● 石井英男 写真●曽根田元 編集●村山剛史/ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

シンギュラリティについては否定的な立場です
飛行機は人間の能力を超えているが、人間を支配してはいない

―― 最近、いわゆるシンギュラリティ(技術的特異点/コンピューターが発展し続けたとき、ある一点を越えると自ら技術を進め始めるという論)に関する議論が聞かれますが、先生はどうお考えでしょうか?

村井 コンピューターが人間の制御を離れて勝手に動き出すという、主客がひっくり返るようなことは、私はそれほど支持していません。生身の人間をある意味で超えてるんだとは思いますが、それが人間を支配するとかね、そこの部分は私は懐疑的です。

 義足や義手を作るプロジェクトも我々はやってますが、これまでの義足とか義手は、なくなった足や手を復活させるものですが、今研究しているのはそれ以上のことができるものなんですよ。よく言うのは、天ぷらを揚げている油にそのまま指を突っ込んでも大丈夫な指。(油温を計るために)ときどき指を突っ込むことで、最高の天ぷらをつくる義手ができるかもしれないんですよね。

 そういう新しい力がどんどん備わっていくような形で、人間を補完していくとは思いますけれども。

―― すでにコンピューターが人間の補助をしていると思いますが、将来的には、義足とか義手とかも、むしろ積極的に自分から取り替えてパワーアップしようという時代がいずれくると思います。

村井 つまり、本来の人間の機能を乗り超えてっていうのは、そういう意味でやってくるとは思いますね。ただ、それは人間を支配するということではないと思います。人間を補完、あるいは拡張していくようなものなので、永遠に近づこうとしてもそれを超えることはできないはずだと、私は思っています。

 たとえば、ニューヨークに行くのに飛行機に乗れば10時間ですが、10時間でニューヨークまで行けるというのは人間の能力を明らかに超えているわけですが、これを“人間を支配した技術”だとは思わないわけで。

各巻の監修者が直接講義を行なうイベント「THE SALON」のニコ生録画。

知能はタダみたいな時代が来るだろう
その未来を創るためには楽観的な議論が要る

村井 インターネットそのものが、ネットワークのアーキテクチャーからいうと、どんどん発展をしているんですけれども、この本を書いた後に、Googleがついに新しいプロトコルをIETFで標準化しましたので、そういう意味ではビデオの扱いとか変わると思いますけれども……ただ、今度はそこの処理系ですよね。

 昔はパケットの経路を考えるといった問題は、速いコンピューターをどんどんぶんまわしてやってましたが、今はグラフィックチップが進化していて、画像処理っていうのは、必ず全部の画素の並列処理をやりますので、これを利用すると、パケットがどこにいけばいいかということを非常に速く解けるんですよ。

 ということはね、人工知能みたいな、並列処理が必要なものは、ものすごく早く発展すると思います。そうすると知能っていうのはもうそこら中にあって、知能はタダみたいな時代になるだろうと。

 そうすると、かなり面白いことができるようになってくるだろうと。たぶんシンギュラリティの本当のインパクトは、労働ですよね。人間の労働がどこに行き、それから人工知能の労働がどこに行くかっていう。なくなる職業みたいな言い方をすると、今はかなり受ける記事になるんだけど(笑)。政治家も大好きなんですよね。この話。

 だけど、そういう心配側ではなくて、人間が持っている課題を解決するとか、夢を実現するって方向に動いているわけで。たとえば、ネット書店ができたら街の本屋さんが減りましたと。でも社会全体で困ったことが起こったかというと、そうではないですよね。入れ替わってはいますけれど。だから、悲観的に考えていく議論も大事だとは思うけれど、やっぱり楽観的に考えていく議論のなかで、未来を創っていくべきだと私は思います。

『これはすっごいダメだな、動かせないな』と思うと、ワクワクする

―― これまでの先生とインターネットの関わりのなかで一番苦労された出来事、特に印象に残っている出来事はありますか?

村井 決して嬉しかったことではないですけれど、インターネットの一番強いインパクトを歴史的に見ると、1995年と2011年の大震災ですね。このときにやっぱりインターネットが認められたんじゃないかと思います。

 私たち日本のエンジニアやデザイナーは、自然災害が起こり、そこから立ち上がろうとした人たちや社会をどうやって支えるべきかについて学ぶ機会を持ったわけですから、大変なインパクトだったと思います。

―― 最後に、読者に対してのメッセージをお願いします。

村井 デジタルテクノロジーとかインターネットっていうのは、人間の果てしない夢を実現するための基盤だと思うんですよね。だから、ちょっと前は夢だったことを実現することに挑戦してもらいたいなと思います。

 それを見ていくのは楽しみだし、自分も課題や夢を実現してきました。僕は『これはすっごいダメだな、動かせないな』と思うと、ワクワクするんですよね。その心はとても大事だと思うんです。小さな声で言いますが、壁をぶっこわしたりすることに、どんどん取り組んでもらいたいなと思います。

―― 先生が実際に壁が壊したときの経験が、この本に詰まっているわけですね。今日はありがとうございました。

角川インターネット講座 第1巻
『インターネットの基礎 ~情報革命を支えるインフラストラクチャー~』

 日本のインターネットの父が解説するインターネットの基礎知識。誕生の経緯から内部の仕組みまで、開拓者自らが豊富な図版を駆使して紹介。

村井純 監修
『インターネットの基礎 ~情報革命を支えるインフラストラクチャー~』
目次
はしがき インターネット前提社会の出発によせて
第1部 インターネットの理念
序章 フロンティアの流儀……村井純 著
第1章 技術の誕生と成長……村井純 著
第2章 インターネットの仕組み……村井純 著
第3章 変貌するインターネット……村井純 著
第4章 インターネットを誰がどのように運用するのか……村井純 著
技術解説 インターネットプロトコル……砂原秀樹 著

第2部 TCP/IP発明者からの「宿題」
インターネットの再発明 Reinventing the Internet
……ヴィントン・グレイ・サーフ

■Amazon.co.jpで購入

前へ 1 2 3 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

最新記事

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン