IBM Watsonも活用して高機能化へ
課題として挙げたのは「物をホールドするために重要な親指の力をもう少し強くしたい」「洗濯バサミをピタッと掴めるほど繊細な指にしたい」などだ。これらは実証後、高機能モデルとしての製品化を目指すという。
また、利用者が腕を上げているか、下げているかといった姿勢の違いによって、手を握ったときの筋電にも差が出るという。それが誤動作の原因になりかねないため、姿勢に応じたキャリブレーション(調整)が必要なのも課題だ。
現状ではユーザーのそれぞれの動作の筋電を計測し、プログラムに事前登録する必要がある。が、もしも万人に共通するパターンが見つかれば、そうした手間をかけずに、さまざまな姿勢で高精度な識別が可能になるかもしれない。そこで多くの人から筋電データを収集し、共通パターンを分析する取り組みを始めている。
問題は、筋電というニッチなデータをいかに大量に集めるか、だ。そのために開発したのが、体中のどの筋肉にも利用できる「汎用筋電インターフェイス」。筋電計測装置として、ユーザーの筋電信号とメタデータをクラウドにアップロードする。クラウド環境にはIBM SoftLayer/Bluemixを採用。様々な業界で手軽に筋電データを収集できるよう、2016年初旬に製品化する予定という。
メルティンはこれまでにも各地でデモを実施し、そこで多数の人から筋電データを集めてきた。その数、健常者数1000人分と実際の上肢切断者数10人分だ。そうして「こんな姿勢でグーしたときの筋電」といった膨大なデータが、すでにクラウドに蓄積されている。
簡単な共通パターンも見つかっており、そのデータベースとユーザーの姿勢をマッチングするプログラムもすでに開発した。「実際の効果検証はこれからですが、キャリブレーションの課題はほぼ克服できたと考えています」(粕谷氏)という。
今後はさらなる高機能化のために「IBM Watson」も使う予定という。汎用筋電インターフェイスが普及すれば、より膨大なデータが解析にかけられる。そこにWatsonの機械学習を利用すれば、人の目では見つけられないより多くの共通パターンが見つけられる。「手そのもの」な筋電義手がぐっと実現に近づくはずだ。
Watsonの活躍はもう少し先となりそうだが、今から楽しみな事例である。しかし、メルティンが目指すゴールはさらにその先にある。粕谷氏が見据えるのは「人の手を超えるもの」だ。そこには「攻殻機動隊」もキーワードとして飛び出して――
(→次ページ、人の手を超えるものとは?)