人の手を超えるものとは?
メルティンのゴールは――?
粕谷氏は「人の手と変わらない義手を作ることですが、実はその先にもう1つゴールがあって、『人の手を超えるもの』を作りたいと思っています。要は健常者が使いたくなるような手です」と答える。
実例として紹介してくれたのが、「The third hand(第三の手)」だ。腰に付けた3本目の手を、顔の表情筋電を使って制御する。実際にハンダゴテの実験が行われたが、間違ってコテを押し当てても怪我をしないなど、危険な作業での利便性などが実証されたという。
また、手術用ロボットも手掛ける。カニのハサミのような極少ハンドを3本展開し、小さな穴から施術するのだが、体に開ける穴は小さいほど患者への負担が抑えられると、そんな効果が期待できる。ただ極小すぎると大きな腫瘍を取り除く際に逆にチマチマと手間になるため、その中間サイズや5本指のものも研究し、プロトタイプを開発中という。
「このような健常者が使いたくなる手というのは、“手は2本”というように今まで人が囚われていた“身体”というバリアを取り除くものです。そういうしがらみのない世界を実現する。元々はそこを目指しています」(同氏)
その一例となるのが、「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT」である。漫画「攻殻機動隊」で描かれる世界では、「義体」「電脳」「光学迷彩」「多脚思考戦車」といった技術が発達している。REALIZE PROJECTは、産学が一体となり、この攻殻機動隊の世界を2029年までに実現できるか追求するものだ。
実はメルティンも参加召集を受け、2015年6月からプロジェクトに参画。「人間の身体的バリアを取り除いて、しがらみのない世界を創る。そのテーマには障碍者も健常者も関係なく、それが攻殻機動隊 REALIZE PROJECTの考え方と共通すると思いました」と考え、イベントなどで積極的に活動している。
希望を灯せ!実用に向けた臨床試験が開始
一方、実際の上肢切断者に向けても具体的な動きが始まった。
電通大、東名ブレース、国立成育医療研究センター、東海大、横浜国大、メルティンが共同で発表した「個性適応型筋電義手の完成用部品登録に向けた臨床実験の開始(PDF)」である。
3Dプリンタを用いて乳幼児から成人までの各種サイズに対応した筋電義手を迅速に整形し、およそ10名の被験者に対して90日以上の試験を行い、日常生活における有用性を評価するという。
まずはグーパーが可能なグローブ型からの臨床試験となるが、2016年中に全指が稼働するモデルも実用化に移る見込みだ。
同社の筋電義手はすでに多くの上肢切断者への適用実績がある。その様子を紹介する動画には、積み木などの非常に繊細な動作を成功させ、笑顔を見せる姿も。
「彼らからは、早く製品化してほしいなどの声をいただきます。その中でも印象的なのが『自分の手があるようだ』というもの。指が別々に動くというのは、実は、日常生活ががらりと変わるほどのことなんですよね」(粕谷氏)
この技術によって、笑顔が増えていくといい。