11月11日、NECは年次イベント「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO 2015」の会場において、人工知能(AI)に関する記者発表会を開催した。長らくAIの研究開発を続けてきたNECは、AIを社会課題解決の重要なコンポーネントと位置づけ、開発体制とソリューション構築を強力に推し進める。
社会価値創造を実現するためのAIとは?
NECは半世紀に渡ってAIの研究開発を進めており、現在もさまざまな独自技術と実績を持っている。こうした同社の技術と適応例、そして方向性について、NEC 執行役員の江村克己氏が網羅的に説明した。
さまざまな定義のあるAIだが、NECとしては「学習や認識・理解、予測・推論、計画・最適化などの知的活動をコンピューター化した技術」と定義づける。人間の学習能力をコンピューターで実現する機械学習の精度が高まったことで、現在は第三次となるAIブームが訪れている状況。こうした機械学習をベースに、文字や画像、テキストからの含意の認識や、将来や異常予兆検知などの予測・推論、さらに計画・最適化などを実現していくのがNECの方向性だ。
最近の機械学習は、従来人手でやっていた特徴(軸)の設計や学習パラメーター決定が自動化されており、適用範囲が拡がっている。NECでは発見したルールを説明できるホワイトボックス型のアプローチとして「異種混合学習技術」を提供してきたほか、発見したルールを説明できないブラックボックス型のアプローチとして、「RAPID機械学習」というディープラーニング製品を持っている。AIと人間が協調して解く問題に関してはホワイトボックス型、AIに任せられる問題や正解が明らかな問題はブラックボックス型の機械学習が適しているという。
今後、NECは社会価値創造を実現する技術として、AI技術を展開していく。江村氏が披露した例が「スマート交通システム」の渋滞予測だ。センサーから得たデータを元に渋滞の状況を把握(見える化)し、渋滞の推移を予測(分析)。分析の結果から、信号機の制御や最適経路の提示などを行なえるようになる。
すでに同社では顔認識をベースにした犯罪者の入国防止や光学振動解析技術による橋梁の劣化検査、インバリアント分析を採用した故障予兆検知、複雑な条件の異種混合技術による電力需要予測など数多くのAI技術の実績を持っている。そして、今回発表されたのはこうしたAIの社会価値をさらに増幅させる「予測型意思決定最適化技術」と「時空間データ横断プロファイリング」の2つになる。
スマートな配水計画とリアルタイムな不審者の特定
予測型意思決定最適化技術の具体例として披露されたのが、ポンプやバルブを適切に調整することで、無駄なく需要を満たすよう、水の流れを制御する「スマートウォーターマネジメント」だ。
江村氏によるとロンドンの漏水率が15%なのに対し、日本での漏水率は7%に抑えられている。日本でも60年前は20%だったため、大幅な漏水率の低下を実現していることになる。また、日本では全国の電力使用量のうち1%が水を作るために使われている。こうした課題に対し、適切な補修計画でパイプ劣化による漏水を防ぎ、配水不足や過剰配水などを抑える配水の自動制御を行なうことでオペレーションコストを大幅に削減できるというものだ。
具体的には、2013年にNECは振動センサーを用いて漏水箇所を特定する技術を開発しており、従来古い順で交換していた水道管を劣化順で交換できるようになった。また、2014年には異種混合学習技術を用いて水の需要予測を実現している。そして、今回発表された予測型意思決定最適化技術で配水制御の自動化を行ない、オペレーションを刷新することを見込んでいる。
配水制御は十分な水圧で水が出る「全需要満足」、最低限の水圧で配水できる「電力最小化」、極端に高い水圧をかけないようにする「漏水最小化・設備延命」など相反する複数の要件を満たす必要があるという。管路の総延長が1000kmで、10万戸に対して配水を送る場合、水道施設から家庭に水が届くまでの時間は約2時間。つまり、刻々と変化する状況を反映しながら、2時間先の需要を高精度に予測し、ポンプとバルブを最適制御する必要がある。
現状、こうした配水制御は担当者の勘と経験に依存しているが、こうした人知を超えた対応をNECの予測型意思決定最適化技術で実現し、最適供給計画を自動生成することが可能になる。予測結果から誤差を考慮し、外れた時でもリスクの小さい最適計画を高速に作れるため、配水不足や過剰配水のリスクを抑え、電力コストを年間で20%削減できるという。
予測型意思決定最適化技術はこうしたスマートウォーターマネジメントだけでなく、価格戦略を1秒未満で生成するダイナミックプライシングや待ち時間の少ない交通機関の運行計画、設備の保全計画などで適用が見込まれるという。
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