巨額の費用を投じるも買い手が付かず
プロジェクト終了
さて、では肝心の性能はどうかという話である。WeitekをChainedで利用するとノードあたり20MFLOPSなので、256ノードでは最大5.12GFLOPSという性能になる。
同時期の製品としては、インテルが作ったiPSC/860が、やはり128ノード構成で理論性能5.12GFLOPSなので、大体同程度ということになる。
性能評価に関しては、SUPRENUM-1の初期から評価に協力してきたコロラド大のOliver A. McBryan博士の論文がいくつか出ているが、彼がShallow Water Equations(浅水波方程式)を解く性能を複数の超並列マシンで行なった結果がこちら。
画像の出典は“SUPRENUM: Perspectives and Performance”。
McBryan博士は論文の中で、「SUPRENUM-1は1992年当時であれば間違いなく最強のMIMDマシンであった。ただCM-200もSIMD的に利用すると競争力があり、そしてCM-5と比較するとSUPRENUM-1には勝ち目がない」と説明している。
これは当たり前の話で、WeitekのWTL3132を2048個も搭載したCM-200は絶対性能的には明らかにSUPRENUM-1より上であり、CM-5に至ってはSPARCチップ+ベクトルFPUを搭載して、ノードあたり性能が128MFLOPSに達しているのだから、勝ち目があるわけがない。
もっともこれは搭載しているMC68020+Weitek WTL2264/2265という構成がそもそも遅いので、これを改善すればもう少し性能が上がると期待できた。
実はもともとSUPRENUMのプロジェクトは、第1段階のSUPRENUM-1に続き、第二段階のSUPRENUM-2を開発予定であった。しかし、実際にはこのSUPRENUM-2はキャンセルされる。
1985年から1990年にかけてBMFT(ドイツ連邦教育科学研究技術省)が投じた予算は1億6000万マルクを超える。1985年の為替レートで1マルクが82.14円、1990年で1マルクが90.13円というあたりなので、平均を取ると当時の金額で大体140億円相当。インフレを考えれば200億円では済まないだろう。
初代の地球シミュレータに科学技術庁が投じた600億円に比べればはるかに安いという議論も後から見ればあったのだろうが、地球シミュレータと違うのはSUPRENUMはこれを製品化して販売する予定があったことだ。
ただ1990年の時点になっても、具体的な買い手は付かないままであり、結局1992年にプロジェクトそのものが終了する。SUPRENUM-1は最終的に5セット(6セットという説もある)完成したが、それで終わりであった。
とはいえ、研究プロジェクトとしては成功であり、超並列のプログラミングやアプリケーション構築方法など、多くの知見を残すことになり、このSUPRENUMに影響を受けたGENESISほか多くのプロジェクトを生み出した。前回解説したMeiko CS-2もこのSUPRENUMの要素を多分に受け継いでいるといわれる。
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