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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第329回

スーパーコンピューターの系譜 INMOSから独立したMeiko Scientific

2015年11月09日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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後継機「CS-2」では
Transputerを採用せず

 1993年にMeiko ScientificはCS-2を発表する。CS-2は、Computer Surfaceと非常に似た構成だったのだが、大きな違いはTransputerの利用をやめたことだ。InmosはT800の後継としてT9000というプロセッサーを開発していたが、最終的に同社はこの開発に失敗する。

 T9000はT800の高性能版という位置付けで、T800の10倍の性能となる5ステージのパイプライン構成のプロセッサーコアや16KBのキャッシュ、100MHzのリンクなどを搭載する予定だったが、この設計目標が達成できないまま資金が尽き、1989年にSGS-Thomson(現在のSTMicroelectronics)に買収される。

 SGS-ThomsonはT9000の開発を中止してしまったので、Meiko Scientificにとっては別の方策を採らねばならなかった。この結果、CS-2ではプロセッサーとしてIn-Sun Computing Surfaceなどで使い慣れたSPARCをベースとし、ただしそのままだとTransputerのリンクにあたる機能がないので、これをASICで作ることにした。

 各ノードに利用されたのはTIが製造していたVikingことSuperSPARC Iチップで、当初40MHz駆動のものが利用された。Sun Microsystemsが売っていたSPARCStation 10と同じスペック、といえば理解が早いだろうか。

 ただComputer Surface同様にカードで簡単に交換ができたので、後には50MHzのSuperSPARC、あるいは66~100MHzのHyperSPARCに切り替えられていった。Meikoはこれに先駆けて、CS-2用のネットワークチップの開発に取りかかった。

 これはElan(ネットワークチップ)-Elite(スイッチ)と呼ばれているもので、Fat Tree構成のものである。CS-2の1つのノードは、左下の画像のようにプロセッサーとElanコントローラーが対になって構成される。Elanコントローラーの中身は右下の画像のような具合で、確かにコントローラーというよりは一種のコプロセッサーである。

CS-2のノード。プロセッサーとは、SPARCのプロセッサーバスであるM-Busで直接つながる形になっており、外部I/Fというよりはコプロセッサーという扱いになっている

Elanコントローラーの構成図。Eliteへの速度は片方向あたり50MB/秒(つまりリンク1本あたり100MB/秒)で、これが2way構成となっている

 一方のEliteは、8本のリンクをまとめて扱えるスイッチであり、これを使うことで例えば64ノードならFat-Treeが構成できた。

Eliteの構成図。Arbitorの中身は、ある種のCrossbar Switchである

丸の中の数字はEliteの数である。4ノード毎にまず一番下のEliteにつながり、そこから4リンクが上位に上がる。その上はEliteを4つ束にしたハブであり、16down/16upの構成で、一番上のハブにつながる。最上位は16個のEliteを束にしているわけだ

これは最終的な64ノード構成の頃の写真らしい

 設計上、CS-2では最大1024ノードまで構成できることになっているが、実際はそこまでのシステムが納入されたことはなかった。CS-2は1994年の夏に32ノードのマシンがまずCERNに納入され(後に64ノードにアップグレード)たのを皮切りに、あちこちのサイトにCS-2が納入されていった。最大規模のものはローレンス・リバモア国立研究所で256ノードのマシンが納入されている。

ローレンス・リバモア国立研究所に納入された256ノードのマシン。ちなみに同研究所は256ノードとは別に64ノードの構成も購入しており、合計で320ノードとなる

 TOP500で言えば1995年にローレンス・リバモア国立研究所が224ノード構成のものを164位にランクインさせているほか、英エジンバラ大CERN(欧州原子核研究機構)CERFACS(欧州科学計算研究訓練センター)などがあるほか、イスラエルのハイファ大学にも納入されている。

 ただ、TOP500のスコアや順位を見るとわかるが、絶対性能という意味でもランキングでもあまり芳しいとは言いがたい。ローレンス・リバモア国立研究所の224ノードのシステムでも、理論性能40.32GFLOPSに対して実効性能5GFLOPSだから、効率は12.4%ほどでしかない。

 もともとSuperSPARCのFPUはとても高性能ではないにしても、そこそこの性能は出るはずのものだから、これはやや効率が悪すぎる。CS-2にはオプションで、富士通のμVP(Micro Vector Processor)が搭載できるという話になっており、これを使えばもう少し性能が上がったのかもしれないが、導入したサイトがあったかどうか定かではない。

出典は“VectorProcessingElement Overview(84-CB041)”というマニュアル。MK403というカードにはSuperSPARC×2と、μVP×2が搭載される構成になっている

μVPは理論性能では単精度で200MFLOPS、倍精度でも100MFLOPS、除算ですら6MFLOPSが可能ということになっていた

 いずれにせよ、CS-2の売れ行きはあまり芳しくなかった。最終的にMeiko Scientificは1996年にThales Alenia Spaceの出資を受けて同社と一緒にQuadricsというジョイントベンチャーを興す、というよりQuadricsに事実上吸収合併される。

 QuadricsはAlphaベースのシステムの開発に同社の技術を利用しようとするが、それよりもむしろMeikoのElan-Eliteのネットワークの方がビジネスになった。QuadricsはこれをQSNetという名前で販売し、これはASCI Qに全面採用されるに至っている。

 最終的にQuadricsは2009年に営業を終了するが、この間際までQSNetとその後継製品はスーパーコンピューター向けに販売されていた。

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