もはや共働きが当たり前の世の中である。
昭和に主流だった「専業主婦のいる家庭」が800万世帯を割る一方、「共働き」は1000万世帯を超えて増え続けている。男性も女性も今こそ働き方を再考すべき時かもしれない。
そんな中、ワークスタイルを変革し、社員には喜ばれ、地域には模範とされるような「いい会社」も増えているという。社会的課題が渦巻く中、彼らはどのような理念で、どのような価値を生み出しているのか。
そんな講演がcybozu.com conference 2015で行われた。サイボウズ 社長室 フェロー 野水克也氏の「共働き時代のワークスタイルをデザインする」というセッションだ。
我々は今、何を考えるべきなのか。その内容をお伝えする。
働き方を再考すべき様々な背景
講演には「共働き時代のワークスタイルをデザインする」という主題のほか、「地域の共生を目指すいい会社のクラウド活用事例」という副題がついていた。
「共働き、いい会社、地域の共生といったキーワードが贅沢に散りばめられているが、個人や会社、そして地域のためになる会社経営とは何か。諸々の社会的な課題があるが、それを解決するためにチームワークでワークスタイルを変えましょう、というのが本日のテーマ」と野水氏は切り出す。
「ワークスタイル」は近頃のサイボウズのキーワードである。では、なぜいま「ワークスタイル」なのか。
その背景はさまざまだ。まずは国家的要請として、少子高齢化や財政問題、都市と地方の不均衡が挙げられる。
「少子高齢化で年功序列が崩壊し、2025年には上司2人に部下1人という歪んだ人口ピラミッドとなる。よって終身雇用も危ない。それに伴い、年金や医療・福祉の財政問題も膨らみ、政府としては一人でも多くの人にちょっとの時間でもいいから働いて、納税してほしいというのが本音となる」(野水氏)
昨今、地方創生が叫ばれるように、都市と地方の不均衡も大きな問題だ。その中で「テレワーク」に期待がかかるように、地方への人の流れを作るような「新しい働き方」が求められている。
経営者視点でも、世界と比べて日本の労働生産性があまりに低いという現状がある。そのためか、日本企業は持続的成長が難しく、30年後も生き残っている会社はほんのわずかとされる。
野水氏によれば、根本的に、昔のように歯車のような人材を大量に育成し、同一価値で一斉に競争させる「低所得な国の勝ち方」は成り立たなくなり、バランスよりも飛び抜けたスキルを集めて、ニッチな分野でナンバーワンになる「成熟国の企業の勝ち方」が求められているという。
一方、生活者にスポットを当てれば、核家族化が進み、冒頭で述べたように共働きが当たり前となった。
さらに言えば、自殺率も主要国ではロシアに次いで高く、特に50代前後の男性が多いことから、内閣府による「お父さん、眠れてる?」といった自殺対策キャンペーンが継続的に打たれるような悲しい現実がある。
クラウドが働き方にもたらすモノ
そうしたことから「みんなで同じことを一斉にやるチームワークはもう無理」と野水氏は指摘する。
「もちろんチームワークが悪いわけではない。チームワークのやり方を変えるべき。つまり、ワークスタイルを変えれば解決するのではと考えている」とのことで、「そのためにはクラウドが有効」と語る。
クラウドのない時代、働き方は様々な理由で固定化されていた。「例えば、朝9時に出勤しなければいけない。当たり前のようだけど、よく考えると何故? 単に就業規則に書いてあるからと皆が9時に出勤することで、必要な交通量は3倍くらいに増えてしまう。これは非常にムダである」(野水氏)
それに対して、クラウドがもたらすものは「ナレッジシェアリング(情報の共有)」「ワークシェアリング(労働の分配)」「マッチング(距離を超えた商取引)」だという。
例えば、ワークシェアリング(労働の分配)では――、
「これまでは、フルタイマーとパートタイマーがきっちり分かれていて、なぜか前者は知識労働、後者は単純労働という図式があった。スキルを生かすには長時間働くしかなく、ものすごく優秀だが働ける時間は細切れという人はスキルを発揮する機会がなかった。クラウドを使うことで、働ける時間だけ働いて、そうした休眠スキルや細切れ時間を有効活用できる」(野水氏)
さらに「もっとITが発達すれば、街中で空缶を拾って捨てることへの対価さえも、きちんとカウントできるようになるかもしれない。ゴミ清掃員だけではなく、一般の人にも労働を分配し、一人一人がゴミを拾って、それがちょっとした仕事になるような世界が来るかもしれない」という。
その「世界」では、その時々に応じて自分のペースで働くことが可能だ。
「今までの働き方は年功序列。いい面もあるけど、最大の問題は一度落ちたら二度と上がれないこと。会社を辞めたり、挫折したり、疲れたから一休みすると、もう元には戻れない。だから無理して働く。その結果が、先ほどの自殺率にもつながる“燃え尽き症候群”ということなのでは? これからの働き方は、男性と女性が共に働き、交互に休み、子育てしたり、留学したりしながら、成長していくような形に変わっていくだろう」(野水氏)
そうした労働環境を実現するため、サイボウズがさまざまな労務制度を採り入れているのは有名な話だ。今年はバリバリ働く? のんびり働く? という「選択型勤務制度」や、労働時間やテレワーク率を自由に選べる「ウルトラワーク」、育児・介護だけでなく“育自分”のためでも取得可能な「休暇制度」などである。これらもクラウドで業務の見える化やコミュニケーションができるからこそだ。
「ワークスタイルはスキルではなく、覚悟。決意すれば誰でもできる」――と、これはサイボウズ代表取締役社長 青野慶久氏の言葉。そこに「ただしチームワーク(とサイボウズ)があれば」と、野水氏は付け加える。
実際、サイボウズの地方のユーザー企業の中には、グループウェアを使って驚くようなチームワークを発揮している例がある。それを、地域に模範とされるような「いい会社」と紹介しているのだが、単にICTを有効活用しているだけではなく、経営理念からして一線を画している感がある。
(次ページ、「いい会社」の共通項)