【後編】現役ミリタリーライター宮永・有馬のミリタリー放談
超大和型!氷山空母!WoWsに登場させたい8隻のロマン艦
WGJミリタリーアドバイザー・宮永忠将氏インタビューの第2弾は、海戦ストラテジー『World of Warships』の主役である艦船、なかでもロマンはあるが実用性は……だったフネを中心に語る特別企画! 引き続きお相手はミリタリーライターの有馬桓次郎氏。前編と合わせてお楽しみください。連載一覧はこちら。
〈前編はこちら〉
超絶グラの軍艦が入り乱れる大海戦ライフを満喫
海戦ストラテジー『World of Warships』が楽しい!
プレイヤー数1億人超を誇るオンラインタンクバトル『World of Tanks』のWargaming.netが、今秋に正式サービスを開始したPCゲーム、それがオンライン海戦ストラテジー『World of Warships』(基本プレイ無料)。
プレイヤーは世界各国の軍艦を操り、2組に分かれて最大12隻対12隻の海戦バトルを行なう。すでに日米を中心に約100種類をラインナップ。今後もソ独英など各国の艦が続々登場予定。リアルさで1つ上に突き抜けた美麗グラフィックは、本記事の宮永氏をはじめとするミリタリーアドバイザーが世界中から収集した貴重な設計図などを元に作られたもの。かつて海原を暴れまわった艨艟を手軽に操れる爽快感は格別だ!
会員登録や基本的なプレイ方法については、この連載の第1回「戦艦!主砲!轟沈!『World of Warships』でオンライン海戦を楽しむ方法」を参考にどうぞ!
スペックは巡洋戦艦、扱いは軽巡、でも会社的には空母!?
フューリアス、君は一体どれなんだい?
宮永 「フューリアス」面白いですね。
有馬 ハッシュハッシュクルーザーのあたりから話をしてみましょう。
宮永 「フューリアス」って面倒くさい艦なんですよね。ゲーム中での艦種は? って話だと巡洋戦艦扱いにするしかないんですけど。
有馬 あれっ、戦艦ですか?
宮永 これについては面白い話がありましてね。イギリスのフィッシャー提督が、政治的な立場がヤバくなってきたときに最後っ屁として出してきた艦なんです。
ちょっと長い話になりますけど、ドイツの海軍力が大幅に増強されて、『今のうちに叩いておかねば欧州の制海権が奪われてしまう』とイギリスが焦りだしたこと、つまりドイツとイギリスの建艦競争が第一次大戦勃発の1つの要因ですよね。
だからイギリスでは海軍が戦争の引き金を引いたのは間違いないんですけど、その海軍に戦争の解決能力がまったくない、というお寒い状況だったわけです。苦労しているのは陸軍ばかりという状況のなかで、徐々に海軍の立場が悪くなっていくんですね。ドイツ海軍に対抗して大艦隊を造ってみたものの、一向にドイツ海軍が出てこないじゃないか、と。
そこで、海軍を挙げてバルト海に乗り込み、直接ドイツ本国を叩くという計画が考えられて、そのなかで生まれたのが「フューリアス」な訳です。喫水を浅くしてバルト海の沿岸まで乗り込み、46cm砲で地上を叩きまくってやろう、というね。
有馬 フィッシャー提督が提唱したバルト海侵攻作戦計画ですね。ほとんどモニターですよね「フューリアス」(笑)
宮永 そうそう、速いモニターですよ(笑)
でも、それを建造する予算を内閣が認めなかったんですね。要するに、あれだけ戦艦を作ってやったんだから、それでやりくりしろ。これ以上無駄な戦艦を造るのは認めない、と判断されたわけです。
そこで出された言い訳が「これは戦艦ではありません。大型軽巡洋艦なのです」。そうして造られたのが「フューリアス」。だからスペック上では巡洋戦艦なんだけど、扱いとしては軽巡洋艦という歪な艦なんですよ。
有馬 あっそうか、だから戦艦扱いなんですね。
宮永忠将
Wargaming.net社ミリタリー・アドバイザー。大学院まで西洋古代史(軍事植民史)を専攻。2003年4月よりアナログ・シミュレーションゲーム雑誌「コマンドマガジン」(国際通信社発行)の編集者として勤務。2008年に主に軍事、国際関係、歴史分野での執筆、翻訳、デザイン、各種軍事監修で活動。著書、訳書多数。2013年8月より現職にあり、グローバルID"Phalanx"としてWargaming.netの調査および広報活動に従事している。
有馬桓次郎
ミリタリーライター。主に近現代の軍事史や歴史、民俗史を中心として各誌で執筆。またゲームや小説作品の軍事考証も担当している。近年の研究テーマは「日本海軍の料理史」。ASCII.jpには濃いミリタリーネタが必要になった際に賑やかし役として呼ばれる傾向にある。著書は「戦車に夢中です!」(小学館)、「20世紀の軍人列伝」「世界の名脇役兵器列伝」(イカロス出版)など。
宮永 「フューリアス」で夢の18インチにするか、それとも「カレイジャス」で15インチに落ち着くか。「フューリアス」は砲塔2基でしたっけ?
有馬 そうです、計画では単装を前後2基。完成時には前部に飛行甲板をつけた状態で、後部に1基だけでしたけど。
宮永 どうやって着艦するんだ、サーカスかよっていうね(笑)
やがて後部にも飛行甲板が付けられ、続いて艦橋が取っ払われて全通甲板になり、空母として生まれ変わるんですけど。だから、もし実装するなら空母としてかなあ。
言っちゃ悪いですけど、戦艦としては相当ショボい艦になりますからねえ。「フューリアス」は18インチ砲でも単装2基だし、「カレイジャス」だと15インチ連装2基だけですからね。「妙義」以下ですよ。
有馬 逆に言うなら、そういった性能は低くてもロマンがある艦は人気が出るかもしれませんね。
宮永 この前プレミアム艦で登場した「三笠」がその扱いなんですよ。性能は劣るけど人気の高いロマン艦としての扱いですね。
予算の問題から歪な艦として「フューリアス」は生まれたって話をしましたけど、これはウチの会社でも同じなんですよ。一隻の艦をモデリングするのに、現状では相当な人数を投入して8ヵ月はかかるそうなんです。だから、ただ単にギャグとして新しい艦を出すわけにはいかない。
そう考えると「フューリアス」に夢はいっぱいあるけれど、イギリスという市場を考える会社としての戦略がそこには入ってくると思うので、戦艦としての実装は難しいでしょうね。
有馬 実装されるとするなら、空母としてなんでしょうね。
宮永 それが順当なところでしょうね。まあイギリスには有り余るくらい戦艦の種類があるので、あえてこんな残りカスみたいなのを入れる必要もないんじゃないかと。
有馬 残りカス(笑)
※「フューリアス」……大型軽巡洋艦としての経歴は本文参照のこと。前部に飛行甲板を乗せた状態で完成し、後に全通甲板化して空母に生まれ変わった。準・同型艦は「カレイジャス」。
※フィッシャー提督……第一次大戦時のイギリス第一海軍卿、ジョン・アーバスノット・フィッシャーのこと。彼が提唱したバルト海侵攻作戦の中で、「フューリアス」のように特に陸上砲撃に特化した艦のことを「ハッシュ・ハッシュ・クルーザー」と呼ぶ。イギリス海軍史上、ホレーショ・ネルソン提督に次ぐ重要人物とされる。
※モニター……比較的小型で低い乾舷の船体に、大口径の主砲を搭載した砲艦のこと。その特徴から沿岸部や河川など、浅い水域での活動を主とする。
(次ページでは、「ネルソン級は『World of Tanks』プレイヤーにこそオススメの一隻!?」)
ASCII.jpの最新情報を購読しよう