今回のスーパーコンピューターの系譜で取り上げるのは、英Meiko Scientificである。同社の創立は1985年のこと。創立した6人はいずれも英INMOSからのスピンアウト組である。
INMOSは1984年に最初のT414をリリース、その後T800の開発を始めるが、このT800の投入は最終的に1987年まで遅れた。このT800の遅れを我慢できなかった(?)メンバーが独立して、超並列構成の製品を作るべく立ち上げたのがMeiko Scientificである。ちなみに“Meiko”は女性名ではなく、日本語の“名工”に由来するらしい。
Meiko Scientificが採用したCPU
Transputer
INMOSが開発したマイクロプロセッサーアーキテクチャーのTransputerそのものは、327回にも取り上げたので、おなじみの製品である。
やや話が脇道にそれるが、もともとTransputerは、ある意味超並列のような発想で生まれた製品である。つまり、プロセッサー単体の性能を上げるよりも、多くのプロセッサーを多数接続することでトータル性能を上げようというものである。
そのため、簡単にプロセッサー同士を接続する配慮が当初から盛り込まれた。その最大のものがプロセッサー間リンクである。これは非常に柔軟で、簡単にプロセッサーを組み合わせられるもの(なにせつなぐだけ)だった。
TransputerはTRAM(Transputer Module)という開発ボードを多数提供したが、このTRAM同士を後追いでケーブルでつなぐだけで連携して動くようになった。こうした使い方ができるプロセッサーは他には見当たらない。
TransputerのアーキテクチャーそのものはCISCで、命令セットも単純だった。当初リリースされたT414は1.5μm CMOSで設計され、動作周波数は15~20MHz、性能は7.5~10MIPSということで、今から見ればそう高いものではないが、この当時としてはかなりパワフルな部類に入った。
もちろん絶対性能で言えばT414の後に登場したi386DXは絶対性能こそもっと高かったが、マルチプロセッサーへの配慮はなかったため、システム的にTransputerの方がより高い性能を出せる可能性があった。
ただスーパーコンピューターで使おうとすると、浮動小数点演算は欠かせない。ところがT400シリーズの世代にFPUまで盛り込むのはダイサイズに無理があった。下の画像はT414のダイ写真だが、この時点ダイサイズは8.5×8.3mmで70.55mm2とかなり大きかった。
仮にFPUを統合したら100mm2では効かず、かなりコストアップになったであろう。しかもこのT414、上の画像を見るとSRAMが4KBあるように見える(というか、実際あった)のだがバグがあってこのうち2KBしか使えなかったというおまけ付きである。
FPUを入れてさらに大型化したら、どの程度のトラブルが出たのか、想像したくない。サードパーティーから、TRAMの上にFPU(確かWeitekのどれかのFPUだったと思うが、もう型番を覚えていない)を搭載して、浮動小数点演算を可能にするといった解決策が出ていた記憶もあるが、このあたりがきちんと対応したのは1987年(量産は1988年に入ってから)のT800以降となる。
T800ではプロセスは同じながら、20MHz駆動で20MIPSと性能は倍増したうえ、64bitの浮動小数点演算が可能なFPUも搭載された。当初はこの製品を1985年にリリース予定だったが、開発が難航して2年ほど遅れたことになる。もっとも2年遅らせただけのことはあって、完成度はずっと高まっていた。
ちなみにFPUを搭載したといっても、このサイズではパイプライン化したものは入れられず、性能は20MHz駆動で2.8MFLOPSどまりとなっていた。もっともこれだって、この当時からすればかなり高速である。
同列で比較してはいけないのだが、翌年登場したインテルの80486DX-25MHzのLinpackのスコアは1MFLOPSとされている。当時はインテルもまだパイプライン化したFPUは搭載していなかったからだ。
T800のLinpackのスコアは、オークリッジ国立研究所が25MHz駆動のT800で0.32MFLOPSを実現したという記述は発見したが、元の論文が見つかっていないので正しいかどうかはわからない。ただ、性能を考えればそんなものだろう。
→次のページヘ続く (Meiko Scientific初のマシン「CS-1」)
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