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AWS re:Invent 2015で見た破壊的創造 第2回

新開発のクエリエンジン「SPICE」でAWSのデータを一括ロード

従来型BIを駆逐するクラウドBI「Amazon QuickSight」投入

2015年10月08日 10時30分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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10月8日に行なわれたre:Invent 2015の基調講演で大きく取り上げられたのは、企業の競争力の源泉となる「データ」。新サービスとして、既存のBIの1/10のコストを謳う「Amazon QuickSight」が披露された。

20日間かかっていた分析を6時間で実現

 re:Invent 2015の基調講演において、「(クラウドによる)7つの自由」を軸にユーザーによるITのコントロールをアピールするAWSシニアバイスプレジデントのアンディ・ジャシー氏。これまでさまざまな限界があったBIによるデータ分析をより安価に、使いやすく提供することで、企業の競争力を高めるのも、クラウドによって得られる自由の1つだと指摘する。

AWSシニアバイスプレジデントのアンディ・ジャシー氏

 データ分析に関しては、さまざまな課題があった。「データの中には宝物が隠されているかもしれないが、従来はデータをすべて保持し、マイニングすることができなかった」(ジャシー氏)。これに対して、安価で、スケーラブルなクラウド環境であれば、データ分析はより効率的に行なえるという。

 数年前からAWSでは上流から下流まで包括的なデータ分析環境を拡充してきた。データを保管するAmazon S3、データベースのRDSやDynamoDB、分析基盤のHadoop/Spark on EMR、DWHのRedshift、ストリーミングデータのKinesis Streamなどデータ分析製品を着実に拡充してきた。今年は検索ツールのElastic Searchや機械学習を提供するAmazon Machine Learningなどを投入し、マイクロソフトやグーグルなどに対抗している。

データ分析環境を提供するAWSのポートフォリオ

 こうしたクラウドベースのデータ分析は、通信、金融、広告、医療、メディア、オイル&ガスなど幅広い業種で受け入れられ、多くのユーザー事例を得ているという。「広告会社のVivikiはキャンペーンの分析をクラウドに移すことで、オンプレミスと比べてOPEXを75%と削減した。20日間かかっていた分析を6時間でできるようになった」とジャシー氏は事例を披露する。

新開発のクエリエンジンを採用したQuickSight

 そして、今回は新たにクラウド型BI「Amazon QuickSight」が投入された。新開発のインメモリクエリエンジン「SPICE(Super-fast,Parallel,In-Memory Cluculation Engine)」を採用し、シンプルなBIを従来のBIツールの1/10のコストで提供できるという。

クラウド型BI「Amazon QuickSight」の特徴

 専門の知識と知見を持ったデータアナリストに向けた既存のBIは、現場に近いライトユーザーの利用が難しいという課題もあった。「Cognosのような古いBIはかなりジャンキーで、使いにくい。複数のコンポーネントをまとめないと使えないし、ユーザーあたり1ヶ月150~250ドルかかる」とジャシー氏は指摘する。こうした経緯で、今までデータ分析に携われなかったライトユーザーがAmazon QuickSightの対象になる。

 Amazon QuickSightで採用されるSPICEでは、ユーザーのリクエストに応じて、Amazon S3やRedshift、RDS、EMR、DynamoDB、KinesisなどのAWSの各種データソースに対しクエリを発行し、データセットをメモリ上にロード。独自の並列処理エンジンにより、ETL(Etract、Transform、Load)処理を施し、専用のダッシュボードから視覚化できる。

インメモリのクエリエンジン「SPICE」

 ダッシュボードでは、さまざまなグラフが用意され、結果をドリルダウンできる。また、リアルタイムにデータを取得し、スライド形式で共有できるストーリーボード機能も用意。もちろん、モバイルでの利用も可能だ。「約60秒で最初の分析まで行なえる。美しいレポートビューも用意されている」とジャシー氏はアピールする。実際、デモを見る限り、グラフの表示も高速で、リアルタイム性も高いと感じられた。

さまざまなグラフの種類が用意

グラフから直接ドリルダウンすることも可能

 クエリエンジンのSPICEは、既存のパートナーが提供しているBIツールと連携可能なよう、ユーザーインターフェイス部分と分離されている。SQLライクなインターフェイスを介し、TableauやQlikView、Domo、TIBCOなどと連携できるため、ユーザーは専用のBIサーバーなしで、既存のBIツールを利用できる。

SPICEのみをパートナーのBIツールから利用できる

 データ分析の基盤のみならず、ユーザーが直接利用するBIツールの提供にまで踏み込んできたAWS。バックエンドからユーザーインターフェイスまで一貫して低廉な価格で提供できる強みは大きく、BI・DWH市場にはRedshift登場以来の大きな衝撃が走りそうだ。

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