プロフェッショナル(プロ)とアマチュアには、しばらく前まで、ハッキリとした違いがありました。たとえば、アメリカでプロ中のプロのマジシャンといわれたジョナサン・ニール・ブラウンによる名言があります。
「同じ人に、毎回違うマジックを見せるのがアマチュア。同じマジックを、毎回違う人に見せるのがプロ。」
ジョナサン・ニール・ブラウン
しかし、近年ではプロとアマチュアの境界が曖昧になってきました。たとえば、サブカルの世界では『職人』と呼ばれる、趣味として優れた作品を作る人々も登場し、質の高い作品からは、プロとアマチュアの違いが分かりにくくなってきました。(なかには『プロ市民』などもあるそうで、さらに複雑怪奇な話。笑)
ネットや仲間に作品を公表したら高い評価を得た。じゃあ、「それで起業してみる!」と決断できるか、つまりプロになれるかというと、そのあたりは難しいところ。マネタイズ(収益化)とデマンド(需要)の壁にぶち当たります。「できた、ウケた」と「仕事にする」の間には、深~い溝が横たわっているのです。
筆者も「プロのマジシャンになりたいのですが…」などのメールや問い合わせがたくさんきます。しかし、そんな若者達に伝えるが一番難しいのは、その深い溝なんですよね。「食べられないプロ」になるのは簡単なんですが…(笑)
プロとアマチュア、そのスペックの違い
ここで、ざっくりとプロとアマチュアの違いを挙げてみましょう。
プロ
●継続的にそれを仕事にしている。
●クライアントからの合格点を高確率でクリアできる。
●社会から評価されている。
アマチュア
◯目的は、ストレス解消からバイト感覚まで。
◯実力は初心者から上級者までいろいろ。
◯ルールに縛られない自由さが特徴
福袋のようなアマチュア vs 安定感のあるプロ
ハロウィーンの仮装(コスプレ)と映画の衣装を比較すると分かりやすいかもしれません。映画『スター・ウォーズ』に登場するキャラクターが人気のハロウィーン。この時期になると「お父さんが段ボールでストームトルーパーを作っちゃいました」や「お母さんが子供のためにダースベーダーの衣装を縫いました」みたいな写真がネット上に無数にアップされます。
その多くは、おそらく、ルーカスフィルムやディズニーの許諾なんか受けていないっぽい。上に挙げたアマチュアの3つめのスペック「ルールに縛られない自由さ」に相当するわけです。
一方、プロにおいては、コスチュームデザイナーが予算に応じて作品を完成させ、映画のスクリーンに登場させます。もちろん、パクリはもってのほか。同じように上記のプロの3つめスペック「社会から評価されている」が大事。そのためには、いろんなルールを守ることが大切です。
3番目のルールをカジュアルに言い換えれば「倫理やルールを守らなければNGのプロ vs「まぁ、まぁ」で周囲から許されるのがアマチュア」。社会事件にすらなった旧東京五輪エンブレムのケースもその構図でした。当初、組織委員会や同業者が「まぁ、まぁ…」「よくあること…」とみたいなノリで発言をしたことも問題だったと僕は推測しています。
順番が前後してしまいましたが、他のスペックについても同じです。プロが「継続的な仕事」にするためには、市場のニーズやウォンツがなければ成り立ちません。「クライアントの合格点を高確率でクリアできる」のも大事なスペック。「今日は不調で…」なんて言い訳は、プロは禁句です。腰が痛くても、寝不足でも、常に75%くらいの力を発揮できるのがプロの条件でしょう。ピンチヒッターとして打席に立ったら、得点に結びつけるヒットを打つ。それがプロの仕事です。
アップルの基調講演などで知られるプレゼンも、群衆の前で緊張してシドロモドロにならないのは、プレゼンターが「場数を踏んでいる」からではなく、リハーサルや台本構成など、その対応策をプロは知っているからこそ。アマチュアやプロというポジションは経験や場数で決まる…、なんて都市伝説みたいなことを信じちゃダメ。
かたや、アマチュアは「今日は気分がのらない」と思えばやらなくてもいい。趣味ですから、投資する時間の量も各自バラバラです。なので実力にバラツキがでるのはあたりまえです。自分と市場が常に繋がっている必要もありませんから、コミュニケーションに使うエネルギー配分も、それぞれ自由。パラダイス状態です。
プロもアマチュアもじつは他称…
スペックに客観性が求められるのは当然のこと。そんなふうに考えると、プロもアマチュアもじつは自称ではなく「他称」であることに気がつきます。それも、仲間だけに評価されるのではなく、できるだけ広い社会で評価されること。さらに世界で評価されるならもっといい。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。現在、ビジスパからメルマガ「なかマジ - Nakamagi 3.0 -」、「Magical Marketing - ソシアルスキル養成講座 -」を配信中。
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