ソースがハイレゾでなくてもメリット大
高域側の再生限界を伸ばすために、肝心の可聴帯域内の特性がラフで、一体なんのためのハイレゾ対応なのかと首を傾げるヘッドフォンやイヤフォンもたまにあるが、さすがにTW-S9はフラットな特性のまま、単純に高域端の情報量が増えただけの印象。仮に音源がハイレゾでなくとも、そのメリットは享受できる。
気になるのはTW-S7で優秀だった定位感だ。TW-S9もツイーターの背面にディフューザーを配置してフルレンジユニットの高域成分を拡散させ、ツイーターにも指向性で有利なドーム型を使っているものの、TW-S7と比べると、ステレオ音像をシャープに結ぶポジションは若干狭いように感じた。しかし、ピントの合ったポジションでは、TW-S7より高い解像感が得られるので、この点ではどちらが良いとも言いにくい。
TW-S9ならではの魅力は、むしろ低域にあるかもしれない。パッシブラジエーターは60mmから70mmに大口径化し、エンクロージャー自体もTW-S7よりわずかに大容量化され、低域の再生限界も60Hzから45Hzに伸びている。タイトでパンチのあるTW-S7も魅力的だったが、ゴージャスなTW-S9もいい。基本的にはただ置くだけでオーケーのイージーさだが、セッティングを変えると音の印象も激変するので、オーディオが好きな人には、そこも楽しめるポイントかもしれない。
TW-S7のときもそうだったが、TW-S9にもコンペチターが存在しない。USB接続でハイレゾ対応DAC内蔵のパワードスピーカーとしては、KEFの「X300A」が7万円台、ECLIPSEの「TD-M1」が12万円台で、いずれも価格が離れすぎていて比較対象とはならない。今は下位機種となったTW-S7が最大のライバル機種なのではないか。
むしろ2万円台で買えるスピーカーとして、Bluetoothスピーカーと比較するべきかもしれない。スマートフォンの普及で、ここのところUSBスピーカーはワイヤレスに押されがちだったが、ハイレゾ再生が可能であれば積極的に使うメリットもある。USBスピーカーはワイヤレスと違って、エンコード/デコードの処理が入らないので、映像と音が極端にずれることもない。だから映画や音楽ビデオの視聴にも向いている。
Bluetoorhスピーカーにも「小さいけど低音が出る」ものはたくさんあるが、定位や解像感について一般的なハイファイオーディオと比較できるものはない。ちょっといいBluetoothスピーカーを考えている方は、TW-S9も視野に入れて考えてほしい。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ