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セグメント情報を読み解こう

優れた投資家は「日本郵政」を郵便の会社と思わない

2015年10月19日 07時00分更新

文● 長谷川正人

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日本郵政(持ち株会社)とその子会社ゆうちょ銀行、かんぽ生命の3社が2015年11月4日に上場することが決まりました。誰にもなじみの深い郵便事業の親子3社同時上場には大きな注目が集まっています。日本郵政と、グループの3つの事業セグメントである日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の業績をまとめたのが以下の表です。

日本郵政 グループ連結業績

日本郵政 グループ連結業績(日本郵便が「売上(営業収益)」、他が「売上(経常収益)」は各社IR資料の表記のまま)

連結売上(経常収益)が約14兆円、総資産約296兆円、従業員約22万人の巨大企業グループですが、以下の点でも規模の大きい会社です。

  • 全国2万4464局の郵便局(セブン―イレブンの店舗数は全国1万8092店=いずれも8月末)
  • ゆうちょ銀行の総資産は約208兆円(三菱東京UFJ銀行の総資産は約195兆円=いずれも単独ベース3月末)
  • かんぽ生命の総資産は約85兆円(日本生命の総資産は約62兆円=いずれも単独ベース3月末)

ニュース記事や一般的な投資家はグループ連結で規模の大きさを見ます。しかし、どんな企業にも儲かっている事業、これから儲かる事業、もう儲からない事業があります。では、日本郵政の場合、3事業のどれがグループ全体の利益源で、どれが足を引っ張っているのでしょうか。こういう疑問は、連結業績を見ても分かりません。そこで、セグメント情報を見ることにします。

「セグメント情報」とは、企業の売上高などの業績を、業種や地域別に集計し直した情報のことです。以下では、セグメントに分解された指標を見て、日本郵政の本当の姿を解き明かすことにします。

「日本郵政」は金融業

社名の「日本郵政」から、手紙・はがき、ゆうパックなどの郵便事業が本業のように思えますが、そうではないのです。

郵便事業(日本郵便)は利益面でグループ全体にほとんど貢献していません。確かにグループ全体の9割近い約20万人が従事していますが、売上高(経常収益)の構成比はグループ全体の2割程度(3兆円弱)にとどまっています。さらに、経常利益率はおおよそ1~2%の水準に低迷しています

一方、ゆうちょ銀行は、グループ総資産の約8割、200兆円以上の巨額な総資産を持ち、さらに約1兆1158億円のグループ利益の5割以上、約5694億円を稼ぎ出しています。資産、利益の面で見ると、日本郵政は銀行業とも言えるのです。

かんぽ生命も優秀です。グループ売上(経常収益)の約7割、約10兆円(主に保険料収入)の売上高があり、グループ利益の4割以上にあたる約4931億円を稼ぎ出しているのです。

このように、セグメント情報に着目すると、日本郵政グループの利益は、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の金融2社が9割以上を稼ぎ、郵便事業(日本郵便)はあまり貢献していないことが分かります。日本郵政の子会社のうち、日本郵便だけが上場しない理由のひとつは、収益性の低さにもあるのでしょう。

ただし、日本郵政の利益を支えている銀行や生命保険業の場合、一般企業の売上高にあたる指標を「経常収益」と言ったり、総資産に対する売上(経常収益)の比率や自己資本比率(総資産に対する純資産の比率)が低かったりという、一般の事業会社と異なる「数字の独特のクセ」があります。セグメント情報を読み解いて、日本郵政のグループ連結数値、グループの利益を支えるゆうちょ銀行、かんぽ生命の数値の意味を正しく理解して適切な投資判断に結びつけるには、銀行や生保の経常収益とは具体的に何を示すのかを知らないといけません。

また、金融事業の「数字の独特のクセ」が分かると、ソニーや楽天など、異業種から金融事業に参入した会社の数字も的確に判断できるようになるでしょう。

私が昨年刊行した『「強い会社」はセグメント情報で見抜きなさい』は、これまで見てきたよう企業の経営分析、投資判断に必須のノウハウを解説した本です。ソニー(エレクトロニクスでなく生命保険)、オリンパス(デジカメでなく内視鏡)、サッポロ(ビールでなく不動産)、TBS(放送でなく不動産)など、社名イメージと実際の利益稼ぎ頭事業が大きく異なる代表的な企業のセグメント情報に着目し、本当の利益源を明らかにしています。また、三菱東京UFJ銀行、日本生命の実際の財務データを元に、金融機関の数字の独特のクセがどうして生じているか、ソニー、楽天など異業種から金融事業に参入した企業の連結業績の中で金融事業の占めるウェイトの大きさ、その意味なども解説しています。

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「強い会社」はセグメント情報で見抜きなさい 「ソニーは金融業」「TBSは不動産業」――財務諸表で読み解く各社のプラチナ事業

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