会場では「欲しい」という声がそこかしこで聞こえていた。たしかに記者も惹かれるものがあった。いままでのななめドラム洗濯機は「おでぶ」だったからだ。
パナソニックが9日に発表した、新しいななめドラム洗濯機『キューブル』(Cuble)は、直方体をモチーフにした横ドラムふうのデザインだ。いままでの「おなかぽっこり洗濯機」のイメージを刷新した。
ラインナップは、フル機能版/容量をおさえた設置スペース優先版/乾燥機能を省略した廉価版の3種類。価格はオープン、想定価格はそれぞれ29万円前後、25万円前後、24万円前後だ。
洗濯物がとりだしやすく、気持ちのいいデザインに
いまどきの直線的でシンプルな水まわり(サニタリー)に合わせたつくり。シンクや蛇口のトーンに合わせて、クローム&シルバーをベースカラーに採用し、かなり都会的なイメージだ。
感心させられたのは、上位機のコントロールパネルに静電容量式タッチパネルを使い、使っていないとき操作表示が自動的に消えるしくみがあること。情報量をおさえたデザインは大歓迎だ。
機能面としては、洗濯物をとりだしやすい巨大な“口”が最大の特徴だ。
洗濯槽のバランスを整えて揺れをおさえるバランサーを再設計することで、開口部を従来の380mmから420mmへと40mmあまり巨大化。丸い窓だけでなく、扉そのものを開けられるようにしている。
腰をあまり曲げずに洗濯物をとりだせるよう、構造が工夫されている。
洗浄機能には『温水洗浄』『泡洗浄』を採用。水温を15度、40度、60度とコントロールした洗濯モードを備える。40度のつけおきコースであれば、皮脂汚れをじっくり溶かし、シャツの黄ばみもきれいに落とせるそうだ。
乾燥にもこだわる。熱交換式で大きな装置が必要になるヒートポンプを使わず、3kgまでの“仕上げ乾燥”に特化した低温風乾燥機能をつけた。従来のヒーター式に比べても仕上がり時のシワが少ないという。
家電本来のありかたを取り戻してほしい
パナソニックがキューブルの新たな価値として定義したのは“空間価値”だ。
パナソニックはいままで多機能・省エネ・使いやすさといった“機能価値”を追及してきたが、これからは家電があることで居心地がよくなる、感性に響く家電という視点を加えたい、と話す。
つまり、機能だけでなくデザインも良くするということ。
考えてみれば当たり前のことではあるけれど、今まで日本企業はデザインを“機能を説明するもの”ととらえることが多かった気もする。ただ機能を使うだけならそれでもいいが、消費者はすぐ安物と比べてしまう。
せっかく買うのであれば、より高い満足感を与えてくれる製品を選びたい。
キューブルは、そんなメッセージを「ふだんプレミアム」というコンセプトにおさめている。とびきり贅沢なわけではない、小さな幸せを多く知ることこそ上質というものである──そんな考えだ。
29万円の洗濯機が“ふだん”かどうかは意見が分かれそうだが、当たり前の毎日を明るくすることが“プレミアム”だという考え方は強く肯定したいものがある。もともと家電とはそういうものだった。
しかし、競合商品との差別化だとか、購買層への訴求だとか、メーカーがモノではなく商品目線でものごとを考えていくと、いつしか価格と機能ばかりを追及してしまうもの。デス・スターのような扇風機もそうだが、モノとしての家電の価値をふたたび取り戻そうというのなら、パナソニックの姿勢を強く支持したい。