AWA、LINE MUSIC、Apple Musicと、定額制音楽ストリーミングサービスがスタートしました。以前からレコチョクやKKBOXといった同種のサービスがありましたが、LINEやアップルのブランド力もあり、メディアを中心に「音楽の新時代到来」と話題になっています。中でも、最後発となるApple Musicは、かねてから噂されていた「本命」だけに、高い注目を集めています。
ただ、話題性とは裏腹に、実際に使ってみたユーザーの評判はそれほど高くないようです。
ユーザーが定額制音楽ストリーミングサービスに求めること
不満の原因を挙げていく前に、定額制音楽ストリーミングサービスを利用するユーザーにとってのゴールを考えてみます。ユーザーのゴールは、「聴きたい曲を聴きたいときに聴ける」でしょう。とはいえ、単に自分が聴きたい曲が聴けるサービスを用意すれば、月に1000円誰でも支払うのでしょうか。
音楽を聴く方法は、「CDの購入」や「レンタル」から、「YouTube」へとシフトし、いまや音楽は無料で手に入れられる時代になっています。さらにYouTubeは映像までタダで楽しめるので、音楽だけで勝負するのは難しそうです。
音楽を聴く人にとって価値あるサービスを考えるため、「定額制音楽ストリーミングサービスありき」ではなく、ユーザーが求める音楽関連のコンテンツを洗い出してみます。
- 楽曲
- MV(Music Video)、ライブ映像、ライブ中継
- 歌詞
- ランキング、レコメンド、プレイリスト
- アーティスト情報(イベントやライブの情報を含む)
- ライブチケット優先予約
- アーティストやユーザー同士のコミュニケーション
といったところでしょうか。従来のCDにあたる「楽曲」だけではなく、ビデオや音楽雑誌、ファンクラブの機能までそろえば、だいぶ魅力的なサービスになりそうです。
ペルソナを考える
この音楽サービスを利用するユーザーのペルソナを2つ作成してみました。
- ペルソナA:特定の好きなアーティストがいる熱心な音楽ファン
- ペルソナB:なんとなく好きなアーティストはいるが、いろんな曲を幅広く聴く雑食系音楽ファン
ペルソナAが求めていることは、
- 特定アーティストの曲、 MVがいつでも聴ける、見られる
- 特定アーティストの情報(公式、SNSなど)がわかる
- 特定アーティストとコミュニケーションがとれる
- 特定アーティストのライブや TV出演などのスケジュールとリマインドがわかる
- 特定アーティストのライブチケットの先行予約ができる
- 特定アーティストのライブ中継が見られる
といったところでしょうか。特定の好きなアーティストがいるユーザーは比較的わかりやすく、そのアーティストの限定情報や限定イベントがあれば有料会員になりそうです。つまり、熱心なファンを抱えるアーティストを多く取り込めれば、サービスの会員数を伸ばせるでしょう。
ペルソナBが求めていることは、
- お気に入りのアーティストに近いアーティストや曲のレコメンド
- 好みのプレイリストの提供
- 快適なUI/UX
が挙げられます。ペルソナBは、音楽が生活に必須というわけでもないので、会員獲得にはレコメンドの強化や、ストレスなく楽しめる UI設計が必要です。
Apple Musicのコンセプトダイアグラムを描いてみた
前に作った2つのペルソナをもとに、Apple Musicを利用するユーザーの動きと気持ちを、清水誠さんが「ビジュアルWeb解析」(小社刊)で提唱している「コンセプトダイアグラム」を使ってビジュアライズしてみます。
ユーザーは何らかの「きっかけ」でサービスを利用し、「楽しい」と感じれば、継続します。Apple Musicは月額サービスなので、「続ける」をゴールにしました。このコンセプトダイアグラムの上に、ペルソナと施策を重ねてみます。
音楽に対するモチベーションが異なるので、「きっかけ」もペルソナに応じて用意する必要があります。また、提供するサービスが同じでも楽しみ方が異なるので、ペルソナAにはアーティストの情報やコミュニケーションへの導線をわかりやすく設計し、ペルソナBには、おすすめのプレイリストと、適した導線を提供する必要があります。
Apple Musicを数時間利用してみましたが、残念ながら私は「続ける」ゴールには到達できませんでした。始まったばかりで楽曲数が少ないのもありますが、何より「続ける」につながるはずの、「楽しい」と感じる体験や機能が欠けているのです(好きなアーティストで「ゆず」を選んだのに、ゆずの曲が1曲もないのにはがっかりした、というのもありますが)。
「続ける」ゴールに到達できなかったなら、なぜ到達できないのか、どうすれば到達できるのか、コンセプトダイアグラムを描くと検証できます。なぜ、その改善をすべきなのか、理由も整理できますね。
今回は、「音楽を聴きたい人」をターゲットに考えてみましたが、暇つぶしをしたいユーザー向けには、音楽を使ったゲームを提供したり、映像制作が趣味のユーザーには、楽曲に合う映像制作と公開機能をつけたりと、ユーザー視点で設計すると、「定額制音楽ストリーミングサービス」の枠を超えた音楽サービスも作れそうです。
新しいビジネスを始めるときにもコンセプトダイアグラムを活用してみてください。
コンセプトダイアグラムが自分で描ける!
楽天や米Adobe、電通レイザーフィッシュなど数多くの企業での実績を持つ著者が実践してきたユニークなWeb解析・マーケティング改善の手法を徹底解説した本『コンセプトダイアグラムでわかる [清水式]ビジュアルWeb解析』が発売されました。
「コンセプトダイアグラム」による顧客の行動やマーケティング施策の「見える化」から、指標の定義、データ取得の考え方、上司やクライアントを説得できるレポート作成のテクニックまで。
「周囲に理解されない」「役立つデータが得られない」と悩むアクセス解析担当者、コンテンツ設計や広告キャンペーンを見直したいWeb担当者、チームの意識統一を図りたいディレクターなど、すべてのデジタルマーケター必読の1冊です。
Image from Amazon.co.jp |
コンセプトダイアグラムでわかる [清水式]ビジュアルWeb解析 |
清水 誠 著
- 価格:2,592円 (本体2,400円)
- 発売日:2015年3月18日
- 形態:A5 (184ページ)
- ISBN:978-4-04-8661423
- 発行:株式会社KADOKAWA
目次
- 第1章 アクセス解析を超える「ビジュアルWeb解析」とは
- [1-1]図で考え、図で伝えることがチームを鍛える
- 第2章 事例で学ぶビジュアルWeb解析の流れ
- [2-1]売上2.7倍!地ビールメーカーのリニューアル戦略
- [2-2]新規客とリピーターのWeb利用を設計する
- [2-3]用意すべきコンテンツは図から見えてくる
- [2-4]サイト改善の実績をExcelでアピールする
- 第3章 コンセプトダイアグラムで顧客と施策をビジュアライズ
- [3-1]ビジネスを図で表せば上司と顧客が味方になる
- [3-2]誰でもコンセプトダイアグラムは描けるようになる
- [3-3]ビジネス別コンセプトダイアグラムのサンプル
- 第4章 自作指標と目的別レポートで効果をビジュアライズ
- [4-1]ビジネスの指揮権は追いかける指標を決める人にある
- [4-2]ユーザーの行動を指標で把握しよう
- [4-3]どこから来たか、どこを見ているのかの違いを気にしよう
- [4-4]改善アクションから指標とディメンションを決める
- [4-5]指標の使われ方を考えてレポートを設計しよう
- [4-6]コピペ率や購入チェック率などの自作指標
- [4-7]分かりやすくてカッコイイレポートをExcelで作る方法
- 第5章 今日から使えるグラフデザインの原則とビジュアライズのコツ
- [5-1]表や折れ線グラフを加工するときのヒント
- [5-2]ダッシュボードデザインの原則
- [5-3]ビジュアライズを助けてくれるツール
- [5-4]図の威力をナポレオンの遠征で感じよう