特別編 『ケイオスドラゴン』企画 太田克史氏(星海社COO)インタビュー
アニメは"もし虚淵氏や奈須氏がサイコロを振り直したら?"の世界
2015年08月23日 15時00分更新
豪華クリエイター陣を集めて
TRPGをプレイしてもらった理由は……中二の夢!?
太田 リプレイ本の面白さは、まず、できあがった物語の筋を小説のように楽しむこと、そしてキャラクターを演じているプレイヤーさんのムーブに注目したり、マスターの手際の良さにうなったり、物語をメタ的な視点で追えるところにあります。
例えば「演じている○○さんがすごいなー」という見方ができるんです。「スアロー役をやっている奈須きのこ、こいつの熱演はいいな」という見方って、小説ではなかなかできないんですよ。
―― 小説の編集者である太田さんが、「小説ではできないことがある」と断言される点が興味深いです。
太田 そうですね。僕はきっとどこまで行っても小説至上主義者なのですが、だからこそ、小説という最高の表現の器を上回るかもしれないものに魅せられてしまうんです。『レッドドラゴン』で挑戦したTRPGもそうですね。『レッドドラゴン』は、僕がクリエイターさんたちに最高の物語を生み出すためにTRPGをやりたいんだと言って始めたのがきっかけです。そのときはまさかアニメ、スマートフォンゲーム、ボードゲームまで同時展開する大きなプロジェクトになるとは夢にも思っていなかったんですけれども……(笑)。
『レッドドラゴン』では、ゲームマスターを務める小説家の三田誠さんが中心となって世界観や物語などの大きな設定を作って、その器のなかで各クリエイターさんが、各自ひとりのキャラクターになりきってプレイしています。
TRPGって、プレイヤーの意志で『こうしたい』と思った段階で、シナリオが分岐していくんですね。だから『レッドドラゴン』も、ゲームマスターとプレイヤー全員で作られていく合作のようなところがあります。
―― プレイヤーは、虚淵さん、奈須さんなど皆さんクリエイターですね。多忙な方々のスケジュールを調整して、長時間ゲームに参加してもらうのは労力がかかると思いますが、太田さんとしてはそこまでの手間暇をかけて「TRPGから作品を作り出す」メリットはどんなところにあると考えましたか?
太田 クリエイターさんたちは、自身が物語の作り手なので、発想が常に斜め上に行くこと。物語が予想だにせぬ方向に向けてどんどん面白くなってくれるんです。
……でも最初の動機としては利益的なことじゃなかったですね。
そもそもは僕が昔から、TRPGが好きだったからです(笑)。TRPGから作られた作品として有名なのが『ロードス島戦記』※で、僕はリアル中二の時に連載を読んでいた直撃世代なんです。
こういうものをいつか自分でもやりたいなと。原点はそんな中二の夢ですね。
※『ロードス島戦記』:パソコン誌「月刊コンプティーク」に連載されたTRPGの誌上リプレイ。のちにゲームマスターを務めた水野良の手によって小説化、シリーズ累計1000万部超の大ヒットを記録。アニメ・コミックなどメディアミックス展開も盛んに行なわれた。
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偶発性を生み出すサイコロという神様
太田 自分は編集職をずっとやってきたのですが、特に「ライブ感」を大事にする出版がしたいという思いが強いんです。
「ファウスト」という文芸誌をやっているときにも、「文芸合宿」と銘打って小説家5人を沖縄に連れていって、3泊4日でリレー小説と共作の小説を書いてもらうような企画をやっていました。
―― なるほど。TRPGリプレイも、「ライブ感」を生み出す手法の1つということですね。
太田 はい。TRPGの何が面白いって、ゲームマスターが用意したシナリオ通りにならないことです。
キャラクターは行動するごとにサイコロを振って、出た目によって、その行動が可能かどうかが決まるのですが、その瞬間に、「創作の神様」が入ってくるんです。『レッドドラゴン』でも、奈須きのこさんが100分の1の目を出すシーンがあって。

(C)混沌計画/「ケイオスドラゴン赤竜戦役」 製作委員会
―― えっ、それはどんな場面ですか?
太田 きのこさんが演じるスアローは、「自らが手にし、使用した物を例外なく破壊してしまう」呪いがかけられている人物です。あるとき、スアローが大きな船に乗って竜に突っ込むシーンがありました。
その際に、呪いが発動する/しないという判定をサイコロ2つ振って決めたのですが、「01」から「09」までが大成功で、「10」から「95」まで成功、「96」以上「99」までが失敗という判定です。
「これは確率的にどう考えても成功してヒーローになる流れでしょ、さすがは奈須さん来ましたね! カッコイイ!!」なんてみんなで言っていたら、最初に「0」が出て。その段階できのこさんがちょっと嫌な顔をしたんですけど(笑)、まだまだ大成功になる確率のほうが高い。
それなのに、もう1回振ったサイコロの目がまたゼロで、「00」の大失敗を引いてしまったんです。100分の1の確率で! ゲームマスターも「これは麒麟船、竜に立ち向かう前に自ら壊れちゃいますねー」と(笑)。
そのとき奈須さんや僕らの目論見を上回る何かが出てくる。つまり、スアローが『ああ、やっぱり自分の呪いって本当に怖ろしいものなんだ』『よかれと思ってやったことなのに、僕の前で本当にすべてが壊れていくんだ……』と再認識するという。
それはもう、サイコロという物語を超えた神が、きのこさんに乗り移って出てきたとしか思えない。
小説だと自分が考えたことがそのまま出てくるのが醍醐味ですが、TRPGは即興でそれ以外の要素が入るところが醍醐味ですね。
―― キャラクターの命運が、最後はサイコロが出す目にかかっている。
太田 はい。『レッドドラゴン』は、大元のシナリオからして人の生き死にが関わってくるハードなものなので、怖ろしい展開になりますから。
(次ページでは、「アニメ、スマートフォンゲーム、ボードゲームが連動していく」)

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