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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第40回

特別編 『ケイオスドラゴン』企画 太田克史氏(星海社COO)インタビュー

アニメは"もし虚淵氏や奈須氏がサイコロを振り直したら?"の世界

2015年08月23日 15時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko) 編集●村山剛史/ASCII.jp

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(C)混沌計画/「ケイオスドラゴン赤竜戦役」 製作委員会

『レッドドラゴン』と『ケイオスドラゴン』の共通点は
常に「選択と決断」を迫られること

太田 『レッドドラゴン』のテーマは「選択と決断」で、それをベースにしたアニメの『ケイオスドラゴン』もそこは共通しています。

 『レッドドラゴン』では、「エィハ」という紅玉いづきさんが演じる獣耳の女の子が、「忌ブキ」くんという男の子を助けようとするんだけど、助けると自分は死ぬという状況が発生します。エィハはどうするのかという「選択と決断」を物語の冒頭からいきなり迫られるんです。

―― ハードですね。アニメの第1話を見たんですが、忌ブキくんが「友人の命と引き換えに強大な力を行使できる」というすごい状況下に置かれていてびっくりしました。ずいぶん怖ろしい、えげつないとも言える設定ですね。

太田 あれはストーリーマスターの三田誠さんによるものです。あの人は優しいのに、物語を描かせるとサドっぽいんです(笑)。

 話を『レッドドラゴン』に戻すと、あのときエィハを演じた紅玉いづきさんとしては、「忌ブキくんを助けない」ほうを選択することもできました。そしてそこから物語が分岐する可能性もあったんです。ひょっとするとあの場で紅玉さんが「私の代わりに○○さんに犠牲になってもらいます」と言い出したら、また別の物語になっていました。

―― 展開が大きく変わりますね。

太田 そうですね。予定調和ではない斜め上の展開が見られます。プレイヤーとして、初心者のしまどりるさんと紅玉さんに入ってもらったのも同じような理由からです。初心者は、百戦錬磨の人と比べるとTRPG的な会話にうまく入っていけなかったりとか、決断が素早くできなかったりします。しかし、逆にそのことが要因で読めない展開になっていくんです。

―― 偶発性を呼び込むことにつながるのですね。

(C)混沌計画/「ケイオスドラゴン赤竜戦役」 製作委員会

アニメ、スマートフォンゲーム、ボードゲームが連動していく

―― では、太田さんの念願だったTRPGリプレイとしての『レッドドラゴン』が、今回『ケイオスドラゴン』としてアニメ化された経緯を教えてください。

太田 以前からお仕事を一緒にしていた東宝さんが、「『レッドドラゴン』をアニメ化したら面白くなると思うんですけれども」と声をかけてくれました。

 やるからにはいいアニメにしたいと思ったのですが、そこからが大変でした。

―― どんなところが?

太田 アニメはやっぱり難しいです。ファンタジー世界は全部が空想の産物なので、お金をかけようと思ったら、『指輪物語』みたいにそれこそ幾らでもかけられるけれども、そんな予算はない。では、どうすればいいか。

 僕は『レッドドラゴン』の面白さって2つあると思うんですよ。物語の筋の面白さと、プレイヤーがわいわいやって変化が生じる面白さ

 だから『レッドドラゴン』をそのままアニメ化すると物語の筋だけをトレースすることになっちゃう。それはつまらないなと思って。

「プレイの臨場感を上げるためにいろんな工夫をしました。イラストレーターのしまどりるさんにプレイヤーとして参加してもらったのも、ビジュアルから臨場感を伝えられればと思ってのことです」

―― アニメにおいても「結果を知ってしまうのはつまらない」と思われたわけですね。

太田 はい。『レッドドラゴン』をアニメ化するのならば、アニメ単体で見たときにも、物語としてドキドキする要素を残さないといけない。原作の最終的な出力としての物語だけをなぞるような、悪い意味での「答え合わせ」になってしまうようなアニメ化はいけない、と。

 そのときに……これはアニメ、スマートフォンゲーム、ボードゲームが連動した同時展開をする上で1つの核になったことなんですが、思いついたことがあったんです。

 そのときは、アニメと一緒にスマートフォンゲームとボードゲームも立ち上げようとしていた時期でした。

 どうすればプロジェクトが面白くなるかとあれこれ1年くらい考えていたんですけれども、ふと『スマートフォンゲームの世界設定を“アニメの10年後”にすればいい』と思いついたんです。そうすれば、3つの媒体を同時に展開してなおかつ、それぞれの媒体で新しい面白さが出せるんじゃないかと。

(次ページでは、「舞台を10年後にしてアニメの主人公と「同じ立場」を味わうゲームに」)

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