デスクトップのクラウド化がワークスタイル変革を現実のものへ
第2世代のエンタープライズ事例として後半に大石氏が紹介したのは、Amazon WorkSpacesによるデスクトップのクラウド化だ。画面転送型のシンクライアントをAWSがサービスとして提供するAmazon WorkSpacesを活用することで、端末にデータを残さない高いセキュリティ、幅広いモバイル端末での利用、自動バックアップなど運用負荷の軽減などが実現するという。
さらに大石氏は「ここまでだったら今までのシンクライアントでもできた」とたたみかける。1台からの利用可能なAmazon WorkSpacesでは、スモールスタートが実現できるほか、最初からモバイルアクセス前提であるため、SSL VPNゲートウェイなども不要。「今までのシンクライアントはキャパシティを設定するのが非常に難しかった。その点、Amazon WorkSpacesではキャパシティ設計不要で、台数を増やすことができる」(大石氏)とのことで、キャパシティプランニングの負荷もなくなる。実際、ヤマハは200台近くをAmazon WorkSpacseで使うことで、運用負荷の軽減を実現しているという。
「では、実際のAmazon WorkSpacesはどうなんだろうとお感じになると思います。でも、みなさまはもはや特別なデモを見なくていいんです」と前振りした大石氏は、今回のプレゼンがすべてAmazon WorkSpaces上で実現されていることを披露。iPadからWorkSpaces上のパワーポイントを起動しても、500kbpsで十分な安定性と性能を持つと説明した。
そして、このWorkSpacesを活用しているのが、テレビ東京だ。テレビ東京ではVODの履歴をAmaozon S3に出力し、さらにRedshiftに自動インポートし、Tableauで分析している。さらにこの事例では、サーバーのみならず、分析を行なうTableauデスクトップまでWorkSpaces上に配置している。「大量のデータがRedshiftにあっても、TableauデスクトップまでAWS上にあるため、トラフィックをまったく気にすることがない。WorkSpacesを使うことで、細い帯域でも、Tableauの分析を担当者同士でシェアできる」と大石氏はアピールした。
大石氏は、「これからのクラウド戦略を考える時、デスクトップは欠かせない」と断言する。前述した「ガバナンス」「セキュリティ」「ビッグデータ」「自動化」という4つのポイントから考えても、サーバーとデスクトップを同じインフラ上で管理することは大きなメリットがあり、セキュリティやネットワークの課題解決やワークスタイルの変革を実現できるという。
「今までワークスタイルが変革できなかったのは、PCを使うリスクが高すぎるからだ」と大石氏は語る。たった1台のPCが紛失するだけで、大量のデータが漏えいし、担当者のキャリアが終わってしまう現実。これを打破するには、PCにデータを残さないデスクトップをクラウド化すればよい。これにより、はじめてBYODやリモートワーク、在宅勤務などが実現できるというのが大石氏の持論だ。「今までのクラウドはあくまで情報システムのものだった。しかし、デスクトップがクラウド化することで、すべてのホワイトカラーまで含んだクラウドになる。クラウドの使い方や領域が1つステップアップする」(大石氏)。
既存のエンタープライズに親和性の高い事例を聴衆にアピール
スピードとスケールを重視するアクティブ系のクラウド利用とは異なる方向性のエンタープライズ事例をアピールした今回の講演。まとめに入った大石氏は、クラウド利用の有無で企業の収益性が2倍異なるという2年前の調査会社のレポートを引用し、「クラウドを使うのはすでに当たり前で、その先をいかに達成するかが重要」と満員の聴衆に語りかける。
そして、最後に「昨日のADSJ長崎忠雄社長の講演で『クラウドは(もはや避け得ない)重力だ』という話があったが、私は重力ではなく、自分たちで作り出すものだと思っている。ここにお集まりの方はクラウドを使っていきたいというなんらかのパッションをお持ちでしょう。クラウドの流れをもっと確かなものにして、ワークスタイルの変革、ひいては日本の産業全体をよくしていくということを、みなさんといっしょにやっていきたいと強く思います」と結び、講演を締めた。