自社開発イヤーチップで快適性と遮音性も両立
イヤーチップは通常のシリコンではなく、サーモ・プラスティック・エラストマーを使っています。装着した直後はシリコンのイヤーチップと大差ない付け心地ですが、30分、1時間と経つうちに徐々にフィットしてきて、違和感がなくなっていきます。
これは快適性だけでなく、遮音性にも効いてきます。実際、うまくフィットした場合は、低反発ウレタンのフォームチップと比べても遜色ない遮音性を発揮します。
ただ、自社開発というこのイヤーチップ、着けてみれば快適なんですが、なんというか、造りが大雑把なんですね。製品には4サイズのイヤーチップが付いていますが、パッと見、サイズの違いがよくわかりません。ただ、付けてしまえば適当にフィットしてしまうわけで、そこらへんはアメリカンな感じで対処していきたいです。
ダイナミック型ドライバーのイメージを超えた音質
そして何より素晴らしいのは音です。口径5.1mmのダイナミック型一発というスペックは、ハイブリッド型やマルチドライバーの全盛時代にあって、まったく何のプレミアム感もないわけですが、これが実に素直でいいわけです。
ドライバーの口径が小さいので、低域の音圧感は最近のイヤフォンと比べるとそれほど大したことはありません。ですが情報量そのものは十分以上にあり、低い帯域の信号までよく解像します。収束がいいので、キックやベースが細かく刻んでくるスピード感のあるソースにはドンピシャです。
中高域の解像感はシングルのバランスド・アーマチュア型のような印象で、ダイナミック型のイメージから想像できるようなラフさはありません。無論、特定の帯域でピークが目立つこともなく、フルレンジドライバーならではのバランスのよさを享受できます。
このROCKETS、個人的には布団の中で寝入りに聴く音楽から、爆音飛び交うライブ会場のちょっとしたモニターまで、生活のあらゆる場面で使える万能イヤフォンとして重宝しています。低域の音圧ばかり高くて、モヤモヤしたハイブリッド型に飽きた方にもおすすめします。
このメーカーの創業者は、ミュージシャンやマスタリング・エンジニアの経験もあり、NASAや陸軍でヘッドセットシステムの開発経験もあるといいます。必要は発明の母というわけでしょうか。大規模なメーカーでなくても、個人の経験とアイデアで面白い製品が造れるというところに、改めてオーディオ製品としてのイヤフォンの可能性を感じました。
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著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ