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業界人の《ことば》から 第129回

汎用技術をあちこちから集めた「Apple Watch」とは違う

2015年02月04日 09時00分更新

文● 大河原克行

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今回のことば

「エプソンのウェアラブル機器は、Apple Watchとは狙いがまったく違う。寄せ集めの技術ではなく、尖った技術から生まれた製品」
(セイコーエプソン・碓井稔社長)

好調な業績を得たセイコーエプソン

 セイコーエプソンが発表した2014年第3四半期決算(2014年4月~)は、売上高が前年同期比7.9%増の8148億円、営業利益は56.9%増の1106億円、当期純利益は112.6%増の904億円と大幅な増収増益となった。プロジェクターの販売数量が四半期としては過去最高を記録。円安も追い風となっている。この好決算を受けて、2014年度通期見通しは、10月公表値に比べて売上高で300億円増の1兆900億円と上方修正。利益見通しは据え置いたものの、過去最高益を目指すことに変わりはない。

 セイコーエプソンの碓井稔社長は、「計画通りに行けば、過去最高益は達成できる」と自信をみせる。

垂直統合型ビジネスにこだわり、自社の技術を製品に生かす

 こうした力強い業績の回復は、セイコーエプソンが、2015年度を最終年度として、2009年度から取り組んできた長期ビジョン「SE15」の成果が見逃せない。

 SE15では、「エプソンは、省・小・精の技術を究め極めて、プラットフォーム化し、強い事業の集合体となり、世界中のあらゆるお客様に感動していただける製品・サービスを創り、作り、お届けする」ことをビジョンに掲げ、2011年度までのSE15前期中期経営計画では、利益体質へ転換を重視。2014年度までの後期中期経営計画では、売上高成長を過度に追わず、着実に利益を生み出すマネジメントの推進に取り組んできた。

 利益重視の中期経営計画であるのは確かだが、そこで取り組む体質転換は劇的だ。基本的な考え方は、自らが持つ技術の強みを生かす一方で、垂直統合型のビジネスにこだわり、その技術を生かしたデバイスや製品のビジネスについての「主体性」は、エプソン自らが持つという体質への転換を目指した。そして、同時に、「コンシューマ向けの画像・映像出力機器中心の企業」というこれまでのエプソンの姿から、「既存事業領域での未開拓分野進出とビジネスモデル転換」、「新規事業領域の開拓」といった新たなエプソンの姿を追求するといったことにも取り組んだ。

携帯電話で液晶の利益を伸ばしたが、それでは価格競争から逃れられない

 碓井社長は、「かつては、世の中の流れや競合他社の動きを追って、規模を追い続け過ぎたこともあった。たとえば、液晶ディスプレイ。技術力で差別化が難しくなってきたことがわかっていたにも関わらず、携帯電話向け事業を拡大し、数を追った。売上高を追求することが一番の目的になり、どこに強みがあるのか、顧客にどんな価値を与えられるのかといったことを忘れていた」と振り返る。

 エプソンは、携帯電話メーカーに液晶を提供することで事業を拡大したが、そのビジネスの主体性は携帯電話メーカーにあった。携帯電話メーカーから契約を打ち切られたら、それでビジネスは一気に縮小する。結局は価格競争に陥りかねない。

 そして、携帯電話メーカーは、尖った技術のものを好まないという傾向にもあった。「そこまでの機能はいらないから、コストを下げてほしい」という声は、携帯電話メーカーに限らず、多くのビジネスで一般的に起こりうる話しだ。いまや、部品の安定調達のために複数の部品メーカーからマルチ調達することが一般的となっているなかで、調達する部品は機能の低い方に合わせて使用されることが多い。これも尖った技術が好まれない背景にある。

 ちなみに、エプソンは2010年、液晶ディスプレイ事業をソニーに売却した。

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