スタートアップが入館するクラスター「ラ・プレーヌ・イマージュ」の入り口は入ってすぐのロビー。携帯ゲーム機風のモニターには入館している各社のロゴが入れ替わり映し出されている
昔の繊維工場がITマルチメディアのクラスターに！
ラ・プレーヌ・イマージュは、リールの北西に位置するクラスター。建物に入ってすぐのロビーから、クラスターの属性が感じ取られる楽しそうな雰囲気満点の造りだ。今回は、ラ・プレーヌ・イマージュに入館する企業の中から、独自で翻訳字幕を付け日本アニメのオンデマンド配信をするWakanim、スマホやタブレットなどに3D立体音響ソフトをOEM提供するA-VOLUTE、AR（拡張現実）をスーパーのチラシやイベントキャンペーンなどの日常シーンで展開する広告代理店Idees-3Comの3社を取材した。
日本アニメ専門のオンデマンド配信としてスタートしたWakanim。1シーズンに4〜7タイトルを手がけ、これまでに約60タイトルを配信したという。また、アニメ配信だけではなくWakanim Musicとして、J-PopやK-Popの音楽配信を近々にスタート予定
WakanimのOlivierさん。「ホントに素晴らしい作品！」と取り出したのはソードアート・オンライン！
まず話を聞いたのは、Wakanimの共同経営者のOlivier Cervantèsさん。主に日本アニメ専門のインディペンデントな放送局として設立したスタートアップだ。
これまでフランスでは、日本の放送から数年かかってやっとフランス語版が放送されるという大きな文化の遅延があったが、インターネットがこれだけ普及しているのにあり得ない！ と一丸発起し6年前に3人で起業したという。
日本での放送日の数日前に台本を受け取り字幕を付け、日本の放送後すぐにオンデマンド配信することで、著作権侵害した違法配信を減らす役割も担う。
Wakanimのスタッフが、直訳されたテキストを字幕として最適化し、適切な部分に当てる作業をする
「自分がいち早くアニメを観たい」がモチベーションでアニメの勉強はしたけれど、起業方法は全く知らなかったと語るOlivier氏。ラ・プレーヌ・イマージュで起業やビジネスを軌道に乗せるためのサポートを受け、いまでは「ソードアート・オンラインⅡ」、「進撃の巨人」など、日本大手アニメ製作会社や配給会社の作品を手がけている。
字幕翻訳を手がける二人もアニメ大好き。左、Pauline Loockさんは「進撃の巨人」、Justine Cocquytさんは「銀の匙 Silver Spoon」が好き。フランスにはない日本独自の習慣やモノはなるべく、フランスにある近いもので置き換えるという。
心理音響博士がゲーム音響を飛躍させる!?
Directional soundを手にするCEOのTuyen Phamさん
360度に音場を作る3D立体音響技術を持つのがA-VOLUTE。昨今、端末が進化し、液晶解像度や3Dなど視覚機能は向上しているのに、スマホやタブレットなど機器が小さくなると大きなスピーカーを付けることが出来ないなど、モバイル機器の音響は蔑ろにされていることに着目。心理音響博士号を持つCEOのTuyen Phamさんが中心となり、ハードに依存せずに3D立体音響をソフトで構築する技術を開発した。
A-VOLUTEのソフトが競合他社より優れている点は、CPUへの負荷が少なく3D立体音響を使用してもオーディオの質は落ちないため。OEM製品として提供しているので搭載機器や提携メーカーの名前は明かせないが、世界有数のマザーボードメーカーの製品やヘッドフォン、パソコンなど、世界中の100万以上の製品に搭載されているそうだ。
A-VOLUTEの手がける3D立体音響ソフトはOEM製品のため、採用しているメーカーや実際に搭載されている製品名は明かせないとのことだが、オフィス内を見渡すとなんとなくわかるようなリストが壁にあってあった
さらに、現在開発中のシステム「Directional sound」を披露してくれた。音が非常に狭く絞られた状態でまるでライトセーバーを操るがごとく、スピーカーを向けた一部のポイントにだけ、音を届けることができるのだ。デジタル製品に搭載しての商業利用はもちろんだが、視覚障がいがある人を音で案内したり、パフォーミング・アーツに転用するなど、幅広い分野で利用可能なシステムだ。
