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年37回のイベント、参加者1000名の1年目を経て見えたモノ

夢が拡がるお役所仕事!青森県にITコミュニティの活用を学ぶ

2014年09月09日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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コンセプトは農業!土作りから収穫まで時間をかける

 この取り組みのコンセプトはずばり農業。「実家が農家なので、土が育ってないのに、種蒔いてどうするという思いがある」(杉山氏)とのことで、短期的な目的を追うのでなく、「青森のITビジネスで盛り上げよう!」という目的を長期的に追う。そのため、当初は枠組み作り、情報の流れ、きっかけ作りなどの「土作り」から時間をかける。

コミュニティ作りや収穫までに時間をかける

 次は2年程度でシーズの掘り起こしや側面支援、マッチングなどの「芽出し」を進め、そこから販促活動や自主活動を軌道に乗せ「収穫期」にこぎ着けるという。「田んぼのように緩やかな枠の部会を設けたり、水のように外から情報がつねに入ってくるようにする」(杉山氏)といったコンセプトで、人や情報を集め、アイデアを出し、形にしていく。そしてこれを対外的に告知し、興味を持った人を集めるというループを回すという。

 特筆すべきは、想定される障害に対して、最初から対策を施している点。たとえば、ありがちな「既存事業や団体を守れ」という声に関しては、最初から既存事業を棲み分けてチャレンジすることを明確に。また、「ヨソ者、若者、馬鹿者」など新しい人の参加を促進し、とにかく刺激を与え続け、壁を作れないようにする。「思考停止に陥らないよう、ゆさぶりをかけ続ける。くだらない言い訳を言えない状況を作る」(杉山氏)。

「ヨソ者、若者、馬鹿者」などの参加促進や既存事業者との棲み分け

 さらに、コミュニティに興味ない人に対しては、自主企画を応援。お客さんからのフィードバックをもらって、ハッカソンの試作品やプレゼン大会まで作り、とにかく「自分ごとにする」ようにする。自分の企画ならがんばれるからだ。

 こうして1年走ってきた結果は、冒頭に説明したとおりで、土作りとしては十分な成果と言える。「去年はやり過ぎました。でも、今年はこれ以上のペースで進んでいる」と杉山氏は語る。外部の人材の流入を積極的に進めつつ、参加者の内的モチベーションを上げていくというコンセプトが有効に機能しているようだ。

役所と民間の新しい関係とは?杉山氏のアドバイス

 さて、杉山氏の話で興味深かったのは、後半の「コミュニティ活動で分かった役所と民間の新しい関係」と題したパートだ。

 今までの「役所」はあくまで陳情する対象で、民間と役所で仕事をなすりあっているイメージがあったという。「民間も、役所も勝手に自分たちの絵を描き、互いに協力しろと言っていた」(杉山氏)。また、役人にも「税金使う以上、理由が必要だし」「減点主義なのに何か言われたら怖いし」「2~3年で異動だし」などの事情があるため、説明しやすく、リスクが低い施策になりがちだったという。その結果として、前述したような動員数や実績数などの短期的な数値目標を掲げた、「バズワードの打ち上げ花火」になると杉山氏は分析した。

これまでのイメージ

役人の事情

 とはいえ、役人という名前の通り、「人の役に立ちたがっている」のも事実。「役所はよく誤解されるが、本当は役に立ちたいと思っている。でも、さまざまな不安がある」(杉山氏)という。そこで、役所の役割と優位点を最大限に活かしたやり方、そして役人を動かすコツが重要になる。

 杉山氏がコミュニティ活動で分かったことは、多くの人が役所に求めているのは、必ずしもお金ではないという点。民間企業の多くは、取引先があるため、むしろ不自由なことが多い。その点、役所は取引先がない分自由で、中立性と信頼という強みを持つ。「系列もないし、喧嘩している相手同士でも同じように声をかけられる。違う業種の人も引っ張ってこられる」(杉山氏)。この強みを生かし、お金より、人集めや場作りに専念した方がよいというのが、杉山氏の意見だ。

「役所の強みは中立性と信頼」

 さらに、役人を動かすためには、相手のメリットを考えて欲しいと述べる。たとえば、役所に対しては、イベントの後援がもらえない、レスポンスが遅い、書類が面倒くさいなどさまざまなデメリットがあるが、「部署によってミッションが変わるので、相手を考えて依頼する」という配慮が必要だという。役割分担で作業負担を減らし、何かあったらという不安を解消すべく、できれば簡単にでも実績を積んでイメージを伝えるとよいとのこと。そして、「共通の目的を持って、異なる考え方を尊重することが一番重要」とアドバイスする。

相手のメリットを考える

ハードルを下げる

 ベンダーでも、業界団体でもなく、コミュニティという形態を活用し、地場のITを盛り上げる青森県。県外も含め、参加者全体が大きなメリットを得られるよう緻密に練られたプロジェクトはまさに民間企業顔負けといえる。大胆な行動力で地元を盛り上げるさまざまな施策を打ち出す青森の取り組みは、ITと自治体の新しい関係を提示しているようだ。今後の青森県の取り組みから目を離せない。

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