事業コンシェルジュならではの分厚いサポートを支える戦略インフラ
業務支援にまで踏み込む弥生のカスタマーセンターの真髄に迫る
札幌カスタマーセンターは、大阪カスタマーセンターから遅れること10年、2007年7月にオープン。「人材層が厚く、製品・業務のスキルを求められる弊社のカスタマーセンターには最適だった」(岡本氏)というのが札幌に設立した理由だという。
当初は1フロア60席規模だったが、2008年、2011年、2012年、2013年と4回の増床を続け、座席数を6年強で約7倍にまで拡大してきた。現在は、問い合わせの総合窓口やテクニカルサポートのほか、弥生側から情報提供を行なうアウトバウンド、注文受付や顧客情報の登録・変更管理を行なうサービスなどのセクションがある。そして、これら“前線”を業務設計、運用支援、ユーザーコミュニケーション、稼働管理、品質管理などのセクションが後方支援するという形で構成されている。設立以来、85~90%強という高い対応率、満足率を維持しており、2013年度の対応率は84.2%、電話応対の満足率で90%を確保した。
現場の問い合わせや苦労などが披露!
発表会では、個人情報をカットした状態で録音した問い合わせの音声が披露された。また、オペレーター経験のある現場スタッフや責任者が記者の質問に答えるコーナーも用意された。
問い合わせ内容を見ると、「社員の家族が年度内に亡くなった場合、扶養から外した方がいいのか?」(年末調整関連)、「5月までは個人だったが、現在は法人化され、社保に切り替わった。この場合、社会保険料控除はどのように入力すればいいのか」(確定申告関連)、「警備会社への保守料・セキュリティカード使用料はどこに仕訳るべき?」(仕訳相談)、「消費税が上がる4月の売上にしなければばらない取引を3月時点でどう処理すべきか」(消費税改正業務相談)など、業務の現場で課題になることばかり。下は会計業務を初めて担当する若い人から、上は82歳(!)まで幅広い問い合わせに答える必要があり、まさに業務コンシェルジュの役割を思い知る。
しかも、実際にやりとり聞くと、操作サポートではなく、業務のサポートはきわめて難しい。顧客サービス本部 札幌カスタマーセンター センター長の西部淳子氏は、「お客様はいろんな言い方をなさる。仕訳の質問でも、操作ではなく、実際は会計知識だったり。とにかく現状のヒアリングから、要件をきちんを特定するようにしている」(西部氏)。必ずしも脈絡のあるわけではない問い合わせから、顧客の求める質問の内容を構築し、適切に回答する能力が求められる。
現場のスタッフからも「『札幌寒いでしょう』から始まって、なかなか用件が始まらないということもある」「家庭のご事情があるようで、旦那様がいると奥様が答えを濁されることも」「サポート終わった段階で、その場で感謝してもらうだけではなく、あとからお菓子を送っていただいたことがあった」といった現場のこぼれ話も披露。サポートをできない質問や内容であっても、「立て板に水的にお断りすることがないようには指導している。所轄の税務署にご相談くださいとか、次のお客様のアクションまでは誘導している」(西部氏)という。
こうしたハイレベルなサポートを支える人材育成に関しては、特効薬はなかった。「当初数年はサポート内容を丸暗記してもらったが、とても追いつかず、退職してしまう方もいた」(西部氏)といった反省があり、原理原則を元にオペレーター自身にいかに考えさせるかを意識したという。「研修で全部を覚えるのは無理なので、最初は操作サポート、次に会計知識、それから業務サポートといった具合に、段階的にスキルアップできるようにした」(岡本氏)とのことで、日々カイゼンの精神の元、時間をかけて底上げした成果が、高い満足度や対応件数につながっていると言える。
カスタマーセンターの評価軸やゴールについて答えた西部氏は、「問い合わせが完全に解決する完了率で見るべきだが、現状はこの数字がきれいに取得できていない。生産性と顧客満足度の両方を見比べながら、なにがよいのかを考えている」と試行錯誤していると説明。岡本氏も「お客様の話を切り上げて、理解しなくても、説明してしまえば、通話時間は短くなる。でも、お客様は納得していないので、結局またかけてこられる。こうなると、問い合わせの本数自体も増えて、会社としてもマイナス」と語る。そのため、単一の指標ではなく、処理件数や時間、満足度など複数の指標を組み合わせて評価しているという。
レポート後半は、同社が消費税増税とWindows XPのサポート切れという2つの危機をどのように乗り切ったかを探る。