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学校では教えてくれないIT業界 第3回

「偏差値」の亡霊から逃れられなければ幸せな就活はできない

2014年08月05日 16時00分更新

文● 久松 剛(株式会社ネットマーケティング )

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夏のこの時期は、就職活動中の皆さんにとって、ひとつの区切りになっているのではないでしょうか。昨年から新卒募集を再開した弊社でも多くの就活生と接触をしてきました。今回は大学人として数多くの就活生を見送り、自身の就職には苦戦、今は採用担当として活動しているという3つの視点から見えてきた就職活動戦略について話したいと思います。

採用担当として就活生の皆さんと接触していて気になったのは、視野の狭さや不器用さといったものでした。何十社もエントリーしているけれどうまくいっていないという人ほどそうした傾向を強く感じます。彼らの背景には何があるのでしょうか。

私が経験した大学人・就職難民・採用者の3つの立場から見えてきた新卒就職活動のイメージ図は下の図です。

Graph

就活生に見られる脳内妄想企業ヒエラルキーと求人数(左)、及び求人数の動き(右)

図の左側は、多くの就活生が一方的に脳内に描く妄想企業ヒエラルキーです。主に各個人の人間関係やコミュニティーをベースに同心円状に広げられた偏った知名度、イメージといった主観的要素で構成されているようです。これに対し、実際の求人数の動きを就職活動開始から卒業にかけてイメージ化したものが右図になります。よく耳にすることとして7月、8月のこの時期はめぼしい企業(脳内妄想企業ヒエラルキー上位)の求人は終わり、方針転換を迫られるということがあります。次に各階層に対する就活生のイメージとその実情について見ていきましょう。

超大手
老舗上場企業、メガベンチャー、金融などが含まれます。記念受験も含めて「取り敢えずエントリーしてみる」という最たる群です。

親も知っている大手
業界人の間では超有名企業であっても、「親に内定の報告をしたところ、『どこそれ?』と一蹴されたので辞退します」というケース。特に地方出身の就活生に多いようです。星の数ほどある企業の中で、その分野の専門家でもない親御さんに企業名を伝えて知っているケースがどれほどあるでしょうか。就職活動序盤という余裕のあるうちに見られるケースですが、多くの場合、後半で打ち手がなくなって後悔します。親御さんの就職活動時から数十年が経過していますし、親御さんが働かれるわけではないので、さっさと捨てるべき指標です。

就活前から名前は知っている大手
<自分の中の>企業の大きさ順の次は、<自分の中の>知名度順にエントリーするケースが多く見られます。現在の業績や株価、会社の歴史、極端な場合はその企業のプロダクトすらも調べていない場合もあり、内定受諾後に知って青くなっていた就活生を数多く見かけました。

なんだか格好良いイメージの中小企業
そもそも会社数がなかったり、中途しか募集していなかったりするので、実際に内定に至る総数としては微々たるものです。

数十社エントリーしても受からない就活生に話を聞くと、ここまでを取り敢えず数十社受け、お祈り(不合格と)されるケースが多いようです。右側の図にあるように求人枠の総数からすると微々たるものです。これらの企業に対して横並びに就活生がエントリーするという宝くじのような現象が発生しています。

学生時代から出入りしている企業
夏休み明けから年明けにかけて見られる選択肢です。求人数の減少と、お祈りされる回数が重なって自暴自棄になっているところへ、アルバイト先の上長から「それじゃうちで働く?」となって承諾するケースです。仕事内容や雰囲気なども十分に分かった上での入社なので案外幸せかも知れないという一方、他社に就職した同期との情報交換や、学生時代と賃金がさほど変わらない事実に気づき、その後転職を決意するケースがまま見られます。


上記の枠に当てはまらない企業です。会社名は広く知られていないものの大企業から中小企業まで含まれます。

ここで改めて就活中の方に振り返って欲しいのですが、会社名を皆さんは何社ご存知でしょうか。就活仲間と山手線ゲームをしてみるのも良いでしょう。よほど能動的にリサーチしていなければ、あまり会社名を言えないはずです。今、日本に会社はいくつあるのでしょうか。様々な会社の定義はあるでしょうが、法人税を納付しているかどうかで考えると2012年の段階で約276万社あるそうです。ここから希望する職種や新卒募集の有無で絞っていくと皆さんの知らない会社の求人というのが何十社、何百社もあるわけです。また、特にIT企業の場合は数年で大きくなる企業もあれば、逆にしぼむ企業もたくさんあります。この「他」を発掘することに対する可能性こそが就職活動のもっとも重要なポイントです。

また、「他」の企業を受けた際にあまりにも「滑り止め」感が出ているために採用されないケースも多くあります。この現象は何故発生しているのかを考えてみたところ、行き当たったのはお受験から大学時代までずっと経験してきた「偏差値信仰」でした。偏差値という絶対評価が方々から数値として算出され、それに応じて学校のランキングが形成されるアレです。元大学人としては偏差値信仰に対して「偏差値じゃなくて中身ややりたいことで選ぼうよ」という気持ちを多分に抱いていましたが、学校を選ぶような感覚で会社選びにも偏差値を知名度などに置き換え、上下を決めて思い込んでいる方が多く見られます。

就職活動の期間を有意義に過ごすには、下記の4点が重要だと考えます。

・脳内妄想企業ヒエラルキーは就活生の間ではだいたい似ていることに気付く
上層へのエントリーは宝くじを買うことと同等だと気付いてください。また、運良く脳内妄想企業ヒエラルキーの上位に決まったとしても、数年後には会社や業界の状況で上下する可能性を歴史から知りましょう。学校の偏差値は新設学部でもない限り前後しにくいものですが、会社の業績は様々な要素で上下したり、ともすればなくなったりすらします。今現在の自身の思い込みだけで判断するのはやめましょう。

・現時点での脳内妄想企業ヒエラルキーによる企業評価に対し、中長期的なやりたいことはイコールではないことを認識する
やがて訪れるかもしれない『転職活動』を視野に何ができるのか、キャリアパス、身につくスキルを軸に入れて進路を決めることをお勧めします。

・図中「他」への応募だとしても学校受験時代の滑り止め感覚を持ち出さない
学校受験の場合、受験生はお客様なので滑り止めでも授業料を払っていただけるため拒みません。それに対して就職の場合は、共に働く仲間を探しているのです。加えて20〜30%の人が辞めることを想定した大企業型採用と、それ以外の企業の採用では内定の重さが違うこともしっかりと認識しておきましょう。「他」の若干名募集の内定の方が、大企業の採用で宝くじに当たるよりも純粋な人物に対する評価として高いことだってあります。

・自分が知らないだけで優良企業はたくさんあることを知る
 図中「他」に含まれている企業を調べ、自分に合いそうな会社へアプローチすることが就職活動を有意義にする大きな鍵となります。自身の枠に囚われずに調べ、選択することが重要です。

今回は新卒の就職活動をITエンジニア採用の現場から話しましたが、他分野や転職活動にも一部適応される事柄です。とはいえ私の場合、予定していたプロジェクトが博士の投票が終わった2月末に時期未定延期となり、修了式も「進路:不明」のままでしたが、まだまだ生きているので何とかなるものです。弊社が展開しているマッチングサービス「Omiai」と同様、就職活動や転職活動というものも結局は縁です。皆様により満足のいく出会いがあることを祈るばかりです。


筆者紹介──久松 剛


著者近影

株式会社ネットマーケティング システム開発本部 サービス開発部 Omiaiチームマネージャ。慶應義塾大学政策メディア研究科博士。2000年より村井 純環境情報学部教授に師事。在学時の専門は次世代インターネット、リアルタイムストリーミングなど。IT革命・事業仕分経験後に2012年6月より現職。AWSを用いたインフラエンジニアを中心にリスクマネジメント、BCP、エンジニア採用などを担当。



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