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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第34回

【前編】『Wake Up, Girls!』監督 山本寛氏インタビュー

山本寛監督「アイドルが輝くのは数字重視じゃないから」

2014年07月11日 18時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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(C) Green Leaves/Wake Up, Girls!製作委員会

<後編はこちら

 仙台を舞台にしたアイドルの成長物語『Wake Up, Girls!』(以下、WUG!)、前回はエイベックス 田中宏幸プロデューサーにご登場いただいたが、今度はアニメを制作した山本寛監督に前後編でお話を伺う。

 『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』『かんなぎ』等の代表作を持つ山本氏が本作品を制作した動機は「東北支援のためにできることをしたい」というもの。

 作中では、デビューしたてのアイドルが様々な困難を乗り越えていく姿を描いた。「先が見えない時代の世相を一番うまくすくい上げたのがアイドル」と分析する山本氏。提示したかったのは「結果」よりも、頑張っているという「過程」の大切さだ。

山本寛監督プロフィール

『Wake Up, Girls!』監督・山本寛氏

 1974年生まれ。大阪府出身。アニメ制作会社Ordet(オース)代表取締役社長。

 京都大学文学部を卒業後、京都アニメーションに入社、『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズ演出を経て『らき☆すた』監督。Ordet設立後の主な監督作品に『Wake Up, Girls!』『かんなぎ』『フラクタル』『戦勇。』『宮河家の空腹』等。

 2013年には東日本大震災チャリティーアニメ『blossom』を制作している。



『Wake Up, Girls!』あらすじ

 グリーンリーヴズ・エンタテインメントは、仙台で活動する弱小芸能プロダクション。しかし最後の所属タレントに逃げられ、社長の丹下は次の手としてアイドルユニットの結成を思い立つ。丹下の無茶振りにしぶしぶ街に繰り出しスカウトを始めたマネージャーの松田は、公園で一人歌を口ずさむ少女に出会う。その少女こそかつて国民的人気アイドルユニット『I-1クラブ』のセンターを務めながらも、ある事情で脱退した元アイドル、島田真夢であった。

(C) Green Leaves/Wake Up, Girls!製作委員会

スタッフ
原作:Green Leaves、原案・監督:山本寛、脚本:待田堂子、音楽:神前暁(MONACA)、 キャラクターデザイン:近岡直、色彩設計:辻田邦夫、美術監督:田中孝典、撮影監督:石黒晴嗣、CG監督:濱村敏郎、編集:奥田浩史、音響監督:菊田浩巳、音楽制作:DIVEⅡentertainment、アニメーション制作:Ordet × タツノコプロ、製作:Wake Up, Girls!製作委員会
オープニングテーマ:「7 Girls War」(歌:Wake Up, Girls!)
エンディングテーマ:「言の葉 青葉」(歌:Wake Up, Girls!)

キャスト
島田真夢:吉岡茉祐、林田藍里:永野愛理、片山実波:田中美海、七瀬佳乃:青山吉能、久海菜々美:山下七海、菊間夏夜:奥野香耶、岡本未夕:高木美佑
岩崎志保:大坪由佳、近藤麻衣:加藤英美里、吉川愛:津田美波、相沢菜野花:福原香織、鈴木萌歌:山本希望、鈴木玲奈:明坂聡美、小早川ティナ:安野希世乃
松田耕平:浅沼晋太郎、丹下順子:日髙のり子

(C) Green Leaves/Wake Up, Girls!製作委員会


『Wake Up, Girls!』Blu-ray 第4巻 6月27日(金)発売!

『Wake Up, Girls!』BD第4巻ジャケット。(C) Green Leaves/Wake Up, Girls!製作委員会

発売日:2014年6月27日(金)
価格:7560円(税込)
収録内容:本編第7話~第8話

特典
Wake Up, Girls!プロフィールカード【久海菜々美】(1枚)

初回封入限定特典
・ドラマCD
・ダンス教則映像『Wake Up, Dance!』
・複製台本(アフレコ時の実際の手書き書き込み印刷有)
・月刊『WU,G!』(特製ブックレット)
・SNSゲーム『Wake Up, Girls!ステージの天使』限定シリアルコード)

初回限定仕様
・ピクチャーレーベル仕様
・三方背BOX仕様(特殊パッケージ)

■Amazon.co.jpで購入

東日本大震災の被災地にお金を届けたい
聖地巡礼+イベント=Wake Up, Girls!

―― 『Wake Up, Girls!』は仙台を舞台に新人アイドルたちがアイドルとして頑張っていく物語ですが、制作の経緯や動機から教えてください。

山本寛監督 出発点は僕の個人的な動機からでした。2011年の3月に東日本大震災が起きて、非常に大きく動揺したんです。

 もう、ショックで描けない、作れない。僕だけでなく、東京にいた知人のクリエイターたちも相当動揺して、本当に休業状態になる人もいたんです。

―― 東北から離れた場所に住むクリエイターの方々が、作品を作るモチベーションが保てなくなったというお話は、各方面で聞きました。どのような理由からだと思いますか。

山本 僕たちクリエイターは、お客さんに夢や希望を届けることがそのまま「生業」に直結しています。だから震災で大変な思いをしている日本の人々に対して、何を届ければいいんだと悩んでしまったわけです。

 もうあまりにも夢物語のままでは届かないだろうと。

 美少女がただ単にキャッキャ遊んでいるお話とかもう作れるわけないじゃん、日本には希望があるんだよということがまともに言えるわけないじゃん、というふうに思いました。

―― アニメの制作現場にも、それほどの衝撃があったのですね。

山本 はい。あの震災は、津波があって、原発事故があって、風評被害まであって、日本に残した傷跡はどれだけあるか、計り知れない。僕はこれを国難だと思っています。

 (直接の被害を受けていない)東京にいる僕たちにも相当なショックはありました。たとえば、震災の直後にあった計画停電、あれは日本中の人がすごく衝撃を受けたと思うんですよ。

―― そうでしたね。

山本 それで僕は、東北3県だけがえらい目に遭っただけじゃなくて、日本全体が大ピンチなんだと。じゃあ、自分は東北や日本のために何ができるんだと心の底から考えました。東北に行ってボランティア活動もしましたし、チャリティー活動、募金ももちろんしました。

 でも、いろいろやってみた結論は、自分のできることはやっぱりアニメを作ることなんじゃないかと、もう一度思い直しました。

―― もうアニメを届けられないと思ってから、一巡してアニメを作ろうという気持ちに戻って来られたわけですね。それはなぜでしょうか。

山本 1つは、自分ができることは限られているということ。ボランティアで役に立つ特技があるわけでもない、多額の寄付ができるわけでもない。自分が今できることはアニメ制作しかないんだろうなと

 ……じつは、震災と同時期に大きなスランプに陥っていたんです。『フラクタル』というアニメを作り終えたとき、ネットでこっぴどく叩かれたりして、アニメを作るモチベーションがなくなってしまっていたんですね。正直、もうアニメの仕事はやめようかと思っていました。

 でも、今の自分の力で少しでも日本を良くするためにできることを考えたら、アニメを作る事しかないだろうと。ならばアニメを使って、日本や東北のために何かやろうと。そこがWUG!制作の出発点になりました。

―― WUG!を制作することで、日本や東北に何ができると思いましたか。

山本 これは、僕にとっては主に「お金」だと思ったんですね。被災地にお金を届けたい。

 スランプに陥っていたとき、福島県南相馬市長のインタビューを見たんです。南相馬というのは、津波被害も原発被害もあって二重三重に苦しい地域なんですけれども、市長は「今こそ南相馬がビジネスチャンスになる」と答えてたんです。今ならこの土地でいろいろなことができるよという強気のアピールをしてくれたんですね。

 それを聞いた瞬間に、ああ、「ビジネスチャンス」という捉え方ができるのか。それを自分のアニメで東北復興にまで持っていくためにはどうすればいいかと考えたときに、1つは「聖地巡礼」だと思いました。東北を舞台にアニメを作って、ファンがその土地に集って、ものを買い、飯を食い、お土産を買う、みたいなことができればと。

―― 『らき☆すた』は埼玉県鷲宮神社など、“聖地巡礼ブーム”の火付け役でしたね。

山本 はい。東北を舞台にして、お客さんが聖地巡礼しやすい作品を作ることなら僕にもできると。

 でもまだ足らんと。もうちょっとイベント性が欲しいなと思ったときに、ふと浮かんだのが、僕が個人的にずっと好きだった「アイドル」だったんです。

 アニメのなかにアイドルを登場させたら、現地でライブができる。グッズとかCDとかいっぱい売り出せると。お客さんにただ観光をしてもらうだけではなくて、そこにイベントを定期的に起こせるような作品にしたほうが、たぶん現地にお金を届けたいという趣旨に合うのではないかということで『Wake Up, Girls!』というアイドルアニメに結実していったんですね。

―― アイドルにはどんな良さがあると思いましたか。

山本 震災後に、エンターテインメント業界で唯一盛り上がっていたり、数字を残しているのはアイドルだと思うんです。AKB48、ももクロ(ももいろクローバーZ)、ジャニーズ系、『あまちゃん』、『テニミュ(ミュージカル『テニスの王子様』)』などのミュージカル、地下アイドル、ロコドル……これらがお客さんに支持されている。

 これはなぜだろうと、自分に問うてみたんですが、震災後の世相を一番うまくすくい上げたのがアイドルではないかと。

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