【前編】『Wake Up, Girls!』監督 山本寛氏インタビュー
山本寛監督「アイドルが輝くのは数字重視じゃないから」
2014年07月11日 18時00分更新
どぶ板営業でいこう
―― デビュー後も、アニメ開始前から日本各地を回っていましたね。
山本 エイベックスさんに「新人声優7人でWUG!を結成したら、全国行脚してほしい」とお願いしました。
握手会、2ヵ月ぐらいかけて全国回りましたからね。47都道府県とはいきませんでしたが、もう暇さえあれば握手会をやっていました。
そのあと「触れ愛プロジェクト」という形で更に地方イベントをやりました。作中で登場したライバルユニットI-1club(アイワンクラブ)役の声優も参加したりして、ウワーッと何遍も全国行脚したんです。今後も全国ツアーなどが控えています。
エイベックスには、「もう“どぶ板営業”でやってくれ」と。そういった頑張り、まさにそこを見られているんだと伝えました。
特に、WUG!は仙台を舞台にしているし、そもそもの目的であるところの東北にお金を落とすという意味でも、仙台には必ず行かなきゃいけない。東京でのほほんとしていたんじゃ絶対売れないよとハッパをかけて、そういう方針で今もやっています。
……できれば、デビューライブはお客さんが数人だったとか、駐車場でライブやらされたとか、僕はそれくらいでもいいと思ったんですけど、それはなかったですね。
―― エイベックスの田中宏幸プロデューサーからお伺いしたお話では、最初から満員だったと。
山本 うーん。だからどうしようかなと思って。スタートとしてはその辺が弱いんです。恵まれているんですよ、『Wake Up, Girls!』の7人は。情報が伝わるのも速くなったし、たぶん時代が変わったんでしょう。でもデビュー後の彼女たちの頑張りはちゃんとしていますよ。
アニメ作中に出した、乗り越えるべき壁
―― 「ハコが数名だった」ほうが良かったみたいに聞こえますが、それにはどういう意味があるんですか。
山本 アイドルは、乗り越えるべき壁がないといけないからです。
これは、アイドルに限らずですが、人間が成長するためには、乗り越える壁がありますよね。WUG!の7人には、成長するためのハードルが必要だなと思ったんです。声優7名としてのハードルは、声優や歌やダンスの習得や、それからの全国行脚ですね。
翻ってアニメでは、壁として立ちはだかる人物たちを設定しました。
ライバルとしてI-1clubという国民的アイドルとそのプロデューサーである白木徹。そして、WUG!を担当する音楽プロデューサーの早坂相ですね。
白木には、実力がない子をすぐに切り捨てるような非情さがあるんだけど、すべてはお客さんに完璧な歌とダンスを見せるためと思っていて、筋はきちんと通っている人なんです。
一方、早坂は気まぐれで感性のままにしか動かない。WUG!メンバーの藍里という子は、早坂に才能がないと言われて脱退を考えるんですが、その危機を自分や仲間の力を借りて乗り越えるという流れになります。早坂は、“俺を越えていけ”的な存在として設定しました。
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―― 昔ながらの王道の根性物語ですね。
山本 そこはこだわった部分でもあります。泥臭くても、ちゃんと人間を描きたいというところは。
今はドラマでも泥臭いものが受ける時代ですし、アニメでも、受け入れてくれるお客さんは増えているんじゃないかとは思います。
―― 今は泥臭いドラマが受けるというのが、監督の印象ですか。
山本 はい。たとえばテレビドラマの流れを見ていくと、2011年に『家政婦のミタ』が視聴率40%を超えた。その後『あまちゃん』は地方のアイドルものとして売れた。
その後は『半沢直樹』。もう復讐劇ですよね。上がって落ちての繰り返しという。愛憎入り乱れる一癖も二癖もあるようなドラマが受けるようになったというのが震災後の流れなんじゃないかなと。
―― なるほど。
山本 昔の『愛しあってるかい!』みたいな、いわゆる「トレンディドラマ」は減りましたね。癖の強い作品が数字を取っている。
アニメに関しても、「一生懸命頑張る」ものが受けるようになってきたと思います。
以前は、美少女がキャッキャと楽しくしているお話を見て現実逃避できていましたが、震災以降は、現実が“アニメを見て現実逃避していられる閾値”を超えて厳しくなってしまったと思うんです。
お客さんも、夢だけの物語には感情移入しにくくなっちゃったのかなと。
数字優先、結果優先ではないものを届けたい
山本 ……僕が一度、アニメ制作を続けるモチベーションがなくなってしまったのは、最近のアニメでは売り上げという数字、つまり「結果」が求められるあまりに、結果から逆算して作品を作るようになってきてしまった風潮にあるんですね。
数字が大事なのはもちろん分かる。けれども、数字をつくるためにスタッフ集めから何から売れる要素だけを入れて、そうでない要素は排除している。それはちょっとやり過ぎじゃないかなという。
―― 作品を作るクリエイターの方は、「お客さんに受ける」以外に、「こういうものを作りたい」という衝動のようなモチベーションがあるのですね。
山本 そうです。もちろんお客さんに受けたほうがいいんです。受けないために作るわけでは決してないんですけど、やっぱり作品というのは、そこに主張が見えないといけないなと僕は思うんです。
―― 監督にとっての作品の主張とは、どんなものでしょうか。
山本 作品が何を訴えかけているかというメッセージやテーマですね。僕自身はアニメをそうやって見てきた人間なので、主張が見えないものはやっぱり物足りないんですよ。
アイドルは「過程を重視するもの」と言いましたが、今回のWUG!制作にあたっては、アニメで求められる数字とか、「結果がすべて」という風潮に、僕なりの風穴を開けたかったというところがあります。
主役は新人声優ばかりで、アイドルものなのにキラキラしていないし泥臭い。キャラクターデザインの近岡さんも自分のオリジナルの絵で勝負しているたぶん初めての作品です。マーケティング的に言えば、通すのが難しい企画なのかもしれない。
ただ、数字というのも僕ら制作者がつきつけられるひとつの「現実」ですから、作品の展開同様翻弄されるわけです。
制作現場は、現実という壁に直面して、本当に大変だったんです。
<後編はこちら>
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(C) Green Leaves/Wake Up, Girls!製作委員会
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