快適を自分で手に入れるライフスタイル
キャンパスのインフラ自体は、企業側が用意するものが中心ですが、その中でも、キャンパス内の人々が自分たちで快適になるように取り組むことができる仕組みも見つけることができました。
例えば、トランジットハブ。ここは、通勤に関わる情報提供や自転車の修理などを受け持つ、他の店舗とは少し違った場所になっていました。シリコンバレーは基本的に車がメインで、あとはCalTrainという電車とバスという、かろうじて利用できる公共交通機関がある程度。ニューヨークや東京と比較すると手段の選択肢が少ないエリアです。そこでどのように通勤するか、シャトルバスの運行についてなど、キャンパスに通うためのサポートをしてくれます。
また、電車やバスには自転車で乗り込むことができるため、自宅と駅まで、駅からキャンパスまでを自転車で移動する人も少なくありません。そうした人たちのための自転車修理屋もあり、割安のパーツ代だけで自分の自転車を直すことができるそうです。
さらに、家賃が高騰し、なかなか家探しに難儀することが多くなってきたサンフランシスコやシリコンバレーエリアでの住環境についてもサポートしてくれます。交通、自転車修理、不動産と、キャンパスの外で社員が生活インフラを整える際にも、キャンパスの機能が役立つのです。
もう1つ、ユニークだったのは、キャンパス内の看板やポスターなどを製作する工房があったこと。キャンパス内部へ入るエントランスが各ビルにありますが、どれも個性的で同じ雰囲気ではありませんでした。どこから入ったかがわかるというメリットもありそうです。またキャンパス内のお店の看板やポスターなども製作しており、空間をクリエイティブにハックするための機能として注目しました。
「人」にフォーカスする会社として
キャンパス内は、単にフードが無料で食べられるというだけでなく、様々な工夫を凝らしながら、社員のパフォーマンスを最大化するインフラとして作られていたことがわかりました。こうした快適で便利な空間の中で、仕事に集中したり、息抜きをしたり、同僚とコミュニケーションを取りながら、世界最大のソーシャルネットワークのインフラが作られていくのです。
「F8」の壇上では「People First」というコンセプトをザッカーバーグ氏が掲げましたが、Facebookのコミュニティーを構成している人々に注目して、彼らがどう思うか、どう使うか、どのように安心できるか、といったことに、インフラとして応えていくことになるでしょう。
例えば、匿名ログイン機能はその1つの表れです。他のサービスでのFacebookログインを使った認証は非常に便利ですが、そのサービスに自分のFacebookの情報や権限を与えたくないとして、利用しないユーザーもいました。そこで、匿名ログインを使って、サービスに自分の情報を与えず認証する機能を発表しています。
こうした、「人が生活する場」としてのSNSを充実させようとするFacebook。そのキャンパスを訪れてみると、そこには明らかに人の生活とカルチャーがありました。コンピュータやインターネットのハックから、生活や人生を豊かにするハックへと、踏み込んでいくことになるでしょう。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
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