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「パケット通信」考案者の1人、クラインロック氏が振り返る(後編)

インターネット“ダークサイド”の誕生と発展――そして未来

2014年02月14日 08時00分更新

文● 末岡洋子

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ノマド、IoT、ユビキタス……インターネットは世界を覆う神経系に

 ARPANETの“誕生”から今年で45年。あらゆるものがデジタル化され、ブロードバンド接続が普及し、さらにはモバイル/スマートデバイスの普及も急速に進んでいる。ネット対応端末の台数は、2012年、地球上の人間の数を超えてしまった。すでにビジネスでも生活でも重要なインフラとなったインターネットだが、今後どのような方向に向かうのだろうか。

 クラインロック氏は、上述したような変化によって、4つの新たなトレンドが生まれていると説明する。「インターネットは基本的に、パーベイシブな(日常に浸透する)グローバルな神経系になった」(同氏)。

  1)あらゆるデバイスで、場所や時間を問わずインターネットサービスにアクセスできるノマドコンピューティング
  2)ウェラブルコンピュータから冷蔵庫、ドアなどの“モノ”に至るまで、あらゆるものがつながる組み込み技術
  3)ネットワークに実装されたソフトウェアエージェント
  4)ユビキタスコンピューティング

 インターネットのアーキテクチャは、通信の基盤となるレイヤーが土台にあり、その上に独立したレイヤーとしてアプリケーションが載っている。「あらゆるアプリケーションは、ニーズに合う土台の技術を何でも利用することができる。これは美しいアーキテクチャだ」。アプリケーションとインフラのレイヤーがお互いに独立していることで、イノベーションの自由度が増す。事実、現在ではアプリケーションやサービスが、インターネットにおけるイノベーションの中心となっている。

 「アプリケーションとサービスのイノベーションは、いつもわたしを驚かせてくれる。インフラの未来は予言できるが、アプリケーションとサービスについては『予言できない』と予言しておけば、間違いはないだろうね(笑)」

 「予言できない」としながらも、クラインロック氏はパーソナライズ、動画の爆発、位置情報サービスといったキーワードを挙げながら、「モビリティがさらに進み、仕事、生活、遊び、場所など、あらゆるものが変わってくる」と、さらなる変化が確実に起きる未来を予想してみせた。

インターネット史上に残る人物たち。上から、クラインロック氏を含む「考えた人」、サービスなどを「ローンチした人」、そして「儲けた人」。儲けた人にはスティーブ・ジョブズ氏、ビル・ゲイツ氏、マーク・ザッカーバーグ氏などが並ぶ

インターネットの未来は、利用者自身の手にかかっている

 では“ダークサイド”の未来はどうなるのだろうか。話題がそこに及ぶと、クラインロック氏は表情を曇らせる。“父親”として、現在のインターネットを「青年期」になぞらえた同氏は、「成熟しておとなしくなってほしい」と述べながらも「“悪い行動”をとらなくなるという確信はない」と言う。

 「インターネットは、瞬時に、ノーコストで、匿名で、たくさんの人にリーチできる。この特性がダークサイドを生んでしまった。――恥ずかしいことだ」

 クラインロック氏は、ARPANETが成長していった当時の“ネット文化”に言及して次のように語る。

 「いまとは違って、当時の文化はオープン、信頼、シェア、だれでもアクセスできることなどを重視していた。そのため、セキュリティ保護やダークサイドを抑止するための制限は設けておらず、現在のそれらは後からパッチされた(継ぎ当て)された状態だ。今から思えば、ユーザー認証やファイル認証などの強固な仕組みを備えておくべきだったかもしれない」

 もっと閉鎖的なネットワークにしておけば、ダークサイドも生まれず安全だっただろう。だがクラインロック氏は、「オープンであることは重要だった」と強調する。「インターネットにかぎらずあらゆる技術において、オープンなものはほぼ確実に競争に勝っている」からだ。

 ダークサイドと言えば、最近ではNSA(米国家安全保障局)による市民のプライバシー侵害も大きな議論を呼んでいる。プライバシーについてクラインロック氏は、「プライバシーなんてものはないと思った方がいい。電話帳に名前を乗せたとき、クレジットカードを持ったときに、もう失っているのだ」と述べた。

 45年前に誕生し、今や数十億人が利用するレガシーなネットワークを維持管理していくことは難しい。クラインロック氏は継続的なアップグレードや修正が必要だと述べ、若い世代の聴衆に「それはあなた方に与えられたチャンスだ」と呼びかけた。

 「時計の針を戻すことはできない。われわれはもう、インターネットのない時代に戻ることはできないのだ」とクラインロック氏は語る。それは、インターネットがこれからどのように発展するのかは、利用するわれわれ自身の手にかかっていると伝えているように見えた。

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