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無線LANと有線LANの統合をチップとOSベースから考え直す

エンタープライズにもシスコ流SDNとASICの強みを持ち込む

2013年11月28日 14時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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11月27日、シスコシステムズはエンタープライズ向けのCatalystスイッチやサービス統合ルーターなどのネットワーク製品群を刷新。新たに発表された「エンタープライズアーキテクチャ」に基づき、SDNの概念を取り入れたほか、ソフトウェアの統合や新チップの投入などが行なわれた。

既存のネットワークに比べたCisco ONEの意味

 シスコは大きくデータセンター、サービスプロバイダー、エンタープライズの3つの分野に最適化されたアーキテクチャを用意しており、これらを「Cisco ONE(Open Network Environment)」という包括的なSDN戦略により、統合的に制御・管理するビジョンを持っている。今回の発表はこのうち「ボーダーレスネットワーク」として従来展開されてきたアーキテクチャを強化し、新たに「エンタープライズネットワーク」として再定義。多様化したアプリケーションを支えるインフラとして、製品の設計や体系を抜本的に見直したという。

 発表会において、戦略全般について説明したシスコシステムズ 専務執行役員 木下剛氏は、複雑性、セキュリティ、運用管理の観点で固定系を中心にした既存のネットワークの課題を説明した。

シスコシステムズ テクノロジーソリューション&アーキテクチャ統括 専務執行役員 木下剛氏

 従来のネットワークはVPNやMPLS、Wi-Fiなど複数のネットワークをオーバーレイする形で実現されていたが、現在では社内だけではなく、社外からアクセス利用するようになり、Wi-Fiの利用がむしろ標準だ。そのため、現在ではユーザーが自由な接続形態やアクセスを望むようになっている。また、クラウドとモバイルの普及により、セキュリティのポリシー管理が複雑になっているのも大きな問題だ。「ユーザーのアプリケーションがWebサービス化しており、追加するごとにポートを増やさなければならない。結果として、ポートごとに膨大な設定が行なわれ、それが端末の数分増える」(木下氏)。もちろん、こうしたセキュリティも含め、運用管理にかかるコストを大きく下げて行く必要がある。

 これに対して、Cisco ONEに対応したエンタープライズネットワークアーキテクチャでは、「シンプル、セキュア、TCOの削減」という3つの目標に向かって、「1つのネットワーク、1つのポリシー、1つの管理」を目指すという。

「ネットワークのコモディティ化は起こらない」

 具体的には、同社がこれまで展開してきたISRやASRルーター、Catalystスイッチ、Aironet無線LANアクセスポイントという3つの製品群のプラットフォームを統一。ネットワークの要件にあわせたカスタムASIC上に、コントロールレイヤーを司るエンタープライズネットワークアーキテクチャー向けのOSを「IOS-XE」に統一。上位のネットワークアプリケーションレイヤーにオープンなAPIを備えるSDN機能を載せることになる。

3つの製品群のプラットフォームを統一

 木下氏は、「いろいろな議論はあると思うが、ネットワークがコモディティ化する時代は来ないと思っている。特定領域はともかく、ミッションクリティカルな領域でインフラを担うためには、専用の機器が生き残る。一方で、外部との連携や運用管理の自動化を考えれば、SDNのようなプログラムは活きてくる」と述べ、ネットワークをコモディティ化するのでなく、カスタムASICや専用OSを搭載したネットワーク機器において、オープンなSDNを展開していくのが顧客のメリットになると説明した。

Cisco ONEに対応したネットワークプラットフォーム

 また、一般的にSDNではNorthbound/Southbound APIを介し、アプリケーション側からネットワークの制御をプロビジョニングできるというメリットがアピールされるが、Cisco ONEにおいてはネットワークレイヤーからさまざまな情報を、アプリケーション側で活用できるという。「トラフィックのステータスやユーザーや端末の属性など、ネットワークを見ているからこそ得られるインテリジェンスをアプリケーションに戻し、たとえばダイナミックにセキュリティポリシーをリアルタイムに変えるといったことが実現する」と木下氏は語る。

無線LANと有線LANを同時に処理するカスタムASIC搭載

 今回は、エンタープライズネットワークアーキテクチャーを支えるネットワーク機器として、CatalystスイッチやISR&ASRルーター、Aironetシリーズなどの新製品が数多く投入された。後半の製品説明は、シスコシステムズ マーケティング本部 アーキテクチャ&ソリューションズ マーケティングマネージャーの中西一博氏が担当した。

シスコシステムズ マーケティング本部 アーキテクチャ&ソリューションズ マーケティングマネージャーの中西一博氏

 バックボーンスイッチとしては、最大880Gbps/スロットの「Catalyst 6807-XL」、小型シャーシを用いた「Catalyst 6880-X」、固定型の「Catalyst 6800-ia」などが新たに投入された。これらは40/100GbEに対応しつつ、既存のラインカードなどもサポートし、投資保護を実現するという。

コンパクトな筐体を10/40GbE集約に最適な「Catalyst 6880-X」

Instant Accessというコンセプトで容易な導入を実現する「Catalyst 6800ia」

 アクセスネットワーク向けのスイッチとしては、スイッチモジュールの「Catalyst 4500E Supervisor Engine 8E」が発表されたほか、ワイヤレスコントローラーを内蔵した「Catalyst 3850」、「Catalyst 3650」なども強化。モジュラー型OS「IOS-XE」ととともに、有線LANと無線LANの処理を統合し、SDNにも対応した「UADP(Unified Access Data Plane) ASIC」を搭載。ユニファイドアクセスやSDNによる運用管理の効率化を実現する。

Unified Aceessを広範囲に展開できるモジュラー型のアクセススイッチ「Catalyst 4500E Supervisor Engine 8E」

UDAP ASICを搭載した固定型スイッチ「Catalyst 3650」

 無線LANに関しては、IEEE802.11acにネイティブ対応した「Aironet 3700」が提供される。専用チップセットの搭載により、ギガビットWi-Fiの処理に対応する。さらに収益を生み出す無線LANとして、位置情報サービスを提供するCisco CMX(Connected Mobile eXperience)も進化。特定エリアにおいて、ユーザーのスマートフォンにバナーやサービス内容をポップアップ配信する「CMX Browser Engage」の機能が追加された。

既存のAironet 3600シリーズと、IEEE802.11acにネイティブ対応した「Aironet 3700シリーズ」

 さらにルーターに関しては、大規模向けの「Cisco ISR 4451-X」が追加。高速なWANサービスに対応する2Gbpsのスループットを実現するほか、アプリケーションの可視化、WAN高速化、セキュリティ/VPNなど充実したサービスを誇る。なお、Cisco ISR 4451-Xと同時に発表された「ASR 1000-AXルータ」は、業務アプリケーションとの連携を実現するCisco ONEの「onePK APIツールキット」をサポートする。実施は2014年第1四半期中となっている。

 IOS-XEソフトウェアを搭載した仮想ルーター「Cisco Cloud Services Router 1000V」が正式にリリースされた。マルチハイパーバイザーに対応するほか、管理の自動化を実現するRESTful APIも充実しているという。

仮想化環境上で動作するバーチャルルーター「Cisco Cloud Services Router 1000V」

 アプリケーションに最適化されたネットワークを実現するACI(Application Centric Infrastructure)を上位の取り組みとして見た場合、ネットワークレイヤーもSDNを意識しつつ、大きなてこ入れが行なわれた形だ。また、無線LANと有線LANの統合を、オーバーレイや個々のサービス連携で実現するのではなく、シリコンやソフトウェアごと作り直すことで実現したという点でもインパクトのある戦略発表といえよう。

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