先週は「VMware vForum 2013」と「cybozu.com Conference 2013」という2つのイベントにお邪魔した。どちらも「クラウド」というキーワードでは共通しているのだが、ベクトルが大きく違っていたのが印象的だった。
レイヤーの異なるクラウドはイベントも異なる
VMware vForumの展示会場で印象的だったのは、ハードウェアの多さだ。特にストレージに関しては、EMC、ネットアップほか、さまざまなベンチャーが軒を連ねていた。動体展示していたベンダーもあり、重い鉄からの排気はなんとなくサーバールームを思い出させる。データセンターじゃなくて、サーバールーム。むき出しのPCから排気される、あの匂いは、先日取材したとあるWeb事業者のサーバールームでかいだもの。なんとも懐かしい。
一方、金曜日に行なわれたcybozu.com Conferenceで印象的だったのは、人の多さだ。基調講演会場から出る人の波にもまれていると、満員電車のようにふっと匂う汗に気づく。日本のAWS Summitでも同じことを感じたが、とにかく参加者の多さに驚いた。クラウドへの関心は本当に高くなっており、企業でITに関わっている人であれば、もはや無視できない存在になっていることを実感する。
両社とも「クラウド」というキーワードでは同じだが、対象としているレイヤーが大きく異なる。VMwareは、仮想化という技術でハードウェアを抽象化する。とはいえ、仮想化プラットフォームは、なんらかしらのハードウェアに構築されるものだし、I/Oの問題やレガシーとの連携などの課題から、すべての課題が仮想化で解決するものでもない。そのため、vForumには、専用ハードウェアを含めた、さまざまなソリューションがひしめいているわけだ。
一方、サイボウズはアプリケーションや開発基盤を抽象化した仮想ハードウェア上に構築し、エンドユーザーにサービスとして提供している。そのため、cybozu.com Conference 2013のユーザー事例で登壇した人たちは、もはや社内システムの場所やシステムを構成する製品などまったく意識していない。あくまでクラウドでどう業務が変えられるかが重要で、もはやコンピューターやサーバーの存在は見えない。そして、見えなくても済んでいるのだ。
エンドユーザーはITの価値のみ享受できる時代へ
問題は両社の顧客は誰なのかという話。今やサーバーやストレージは、企業が導入するものではなく、サービスプロバイダーが導入するものになった。そして、そのサービスプロバイダーが提供するクラウドをエンドユーザーが利用するという形になったのだと。イベントの香りを感じながら、つくづく実感した。
こうした構造の変化はいろいろな部分で影響を与えてくる。SI能力の長けたサービスプロバイダーであれば、もはや外部のSIerがなくとも、インフラは構築できる。そうなると、既存のSIerはクラウドと併存するアプローチを考えるか、クラウドを導入しない層を開拓するしかない。当然、ベンダーはサービスプロバイダー向けの商品に開発力をシフトすることになるだろうし、エンドユーザー向けの製品はクラウドを意識した製品にならざるをえないだろう。
もちろん、IT関連のメディアにも大きな変革をもたらしていくことになる。テクノロジーはすでにサービスプロバイダーのものなので、もはやエンドユーザーに技術の優位性を伝えても、ピンと来ない。一方、エンドユーザーは、自社のビジネスのためにどのようなITを使えばよいかが知りたいので、技術やITの知識は必要なくなるはずだ。こうした中、明日のIT媒体はどう作ればよいのか? 担当の悩みは続く。
筆者紹介:大谷イビサ
ASCII.jpのTECH・ビジネス担当。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、日々新しい技術や製品の情報を追う。読んで楽しい記事、それなりの広告収入、クライアント満足度の3つを満たすIT媒体の在り方について、頭を悩ませている。
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