日本オラクル株式会社(以下、オラクル)は10月22、23日、Oracle Days Tokyo 2013と称して今年9月にサンフランシスコで開催されたOracle OpenWorld 2013の短縮版とも呼べるイベントを開催した。元となるサンフランシスコでのイベントについてはこちらの記事を参照して欲しい。
米オラクル、インメモリDBオプションやSPARC M6-32発表
今回のレポートでは、キーノートでの発表やその新機能についてではなく、プレス向けに開催された製品担当の三澤智光専務執行役員(テクノロジー製品事業統括本部長)による質疑応答と最近のオラクル本社による買収のニュースからオラクルが目指すクラウドに対する方向性を探ってみたい。
オラクルの最近のイチオシのソリューションは、Exadataだろう。キーノートの幕間にコレでもかと見せつけられるプロモーションビデオでも「Hardware and Software, Engineered to Work Together」がマントラのように繰り返され、オラクルのWebサイトでも呪文のように見せられる決まり文句だ。
元々、ExadataはHPとの共同開発のデータベースを超高速に稼働させるアプライアンスだ。IntelベースのマルチコアCPUとLinuxベースのOS、Oracle Database、専用にチューニングされたミドルウェアを載せたいわば垂直統合型のソリューションだ。三澤執行役員は「他のデータベース用ハードウェアとの違いは、データベースの開発者がハードウェアを設計した」ことであると明言するほど、コアとなるデータベースのボトルネックを解消し、極限までチューニングを施したF1マシンのようなソリューションである。当然、価格も高い。ただ性能が高いため、既存のサーバーで稼働するオラクルデータベースをExadataに集約することで結果的にコスト削減になる、とも説明する。
オラクルはクラウドが選択肢として光が当たり始めた現在のコンピュータシステムに対して「Internet of Thingsと呼ばれる接続されるモバイル端末の増加」、「突然のアクセス増加などへの対応」、「ビッグデータ」などの課題に対して「データベースは専用マシンが必要」というのが回答だ。そしてそれはクラウドで用意するのではなくオンプレミスで用意するのがオラクル式。いわゆるクラウド・コンピューティングの代表選手、グーグルが安価なIntelベースのサーバーを自ら製造し、集約する発想とは真逆だ。言うならばF1マシンに対抗するために時間貸しのスーパーカブを数百万台繋げてレースに勝とうという対比のように見える。
三澤氏に対して「オラクルの戦略はあくまでもExadataによるオンプレミスがクラウドへの回答ですか?」と質問を投げると返ってきたのは「データベースが中心であることには変わりはないが、オラクルはSaaSにも力を入れている。両方やるのがオラクルの考え方だ」という答だった。23日に開かれた基調講演でHCM製品のVP、ジョン・ハンセン氏がオラクルのクラウドポートフォリオをまとめてプレゼンテーションを行ったが、ここでも最初に出てくるのはエンジニアド・システムで次がSaaSのTaleoやレガシーなPeopleSoftなどのアプリケーションだ。つまりオラクルの戦略のメインはエンジニアド・システム、そしてその対極にあるSaaSのソリューションの二本立てと考えるべきだろう。クラウドを支える一番下のエンジニアド・システムと最上位に位置するアプリケーション。まるでヤジロベーの両端に重しをおいてバランスを取るような格好かもしれない。
直近の海外の報道では、Compendiumという企業の買収に合わせて、2012年12月に買収したEloquaと共にマーケティングソリューションに食指を伸ばしていることが評価されている。
「Oracle acquisition will provide more services for cloud marketing」 http://www.cloudpro.co.uk/saas/3425/oracle-acquisition-will-provide-more-services-for-cloud-marketing
確かに最近のオラクルの買収事例は2012年3月のVitrue(Social Marketing)、12月のEloqua(Marketing Campaign)、2013年10月のCompendium(Contents Marketing)と、マーケティングのソリューションを扱う企業ばかりだ。このポートフォリオをみると競合としてアドビの姿が見えてくる。アドビは2009年にWebサイトのアクセス解析の大手Omnitureを買収した後、凄まじいペースでマーケティング関連企業を買収し、ディジタルマーケティングの製品群を揃えてきた。(関連記事:「Adobe」の左脳が動き出す)
オラクルがExadata上のデータベースに蓄積されたデータの分析と活用をメインにして効果をあげようとしているのに対し、アドビはWebサイトとインターネットを企業のディジタルマーケティングの主戦場と捉え、「Adobe Marketing Cloud」の総称でアクセス解析からキャンペーン管理、ソーシャルまで幅広く製品群を揃えている。オラクルがデータベースを軸に捉えているのとは対照的だが、目指す先は同じだ。
情報システム部門への食い込みという意味ではパートナーや顧客に大量のデータベース技術者を養成してきたオラクルにアドバンテージがあるように見えるが、製品の品揃えではアドビにもチャンスは多いと思える。経験値という意味ではクリエイティブなマーケティングはアドビの最も得意とする領域だからだ。
オラクルのWebサイトに組み込まれているOmnitureのビーコンを確認しながら、オラクルは2009年にOmnitureを買っておけば良かったと思っているのかもしれないとなどということを夢想しつつ、これからの両社の動きを追いかけて行くこととしよう。