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西海岸から見る"it"トレンド特別編

iPhone/iPadとクラウドでチョコレート作り!—テクノロジーと食文化の甘い関係

2013年07月19日 17時00分更新

文● 松村太郎(@taromatsumura

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「チョコレートのベータ版」で
製品の完成度を高め、コミュニティー形成

 テクノロジーの流儀が生かされているのは生産だけではありません。製品開発にもユニークなアイディアを取り入れています。TCHOでは、ウェブサイトから申し込むと、TCHOのベータテスターに登録できます。つまり、製品になる前のチョコレートの試作品をベータ版と位置づけ、これを登録している人たちに試してもらい、フィードバックを得て製品開発に生かすプログラムです。

テスターに参加すると、チョコレートのベータ版を試し、フィードバックを送ることができるようになる

 ソフトウェアの世界では、ベータ版を公開して製品を完成させるのは当たり前のことになりました。またウェブサービスでは、「永遠のベータ版」として常に製品のアップデートをしていく開発手法も取り入れられています。こうしたテクノロジーのカルチャーをチョコレートにも適用し、ユーザーと一緒に新しい味を作っていく「コミュニティ」の形成を行なう点は、やはりテクノロジーのメッカらしい応用といえるでしょう。

 次はソーシャルやアジャイルといったコミュニケーションや開発の流儀が取り入れられるのかもしれません。あるいは、GitHubのように、チョコレートを使ったレシピを流通させることもできるでしょう。常に新しいトレンドや考え方、ビジネスモデルが生まれ続けているテクノロジーの世界をネタ元にして、まったく違う産業に気軽に採用することで、サンフランシスコ周辺ではテクノロジー以外の産業も盛り上がっている、そんな姿を見つけることができました。

「味」を本質的に高めるために

 TCHOは、テクノロジーの流儀をふんだんに取り入れ、チョコレート作りに取り組むことで、生産の効率化や顧客とのコミュニケーションを強化しています。そして同時に、チョコレートの味そのものを本当に高めていくための活動にも挑んでいます。

 カカオ豆は、コーヒー豆などと並ぶコモディティであり、かつては消費国が生産国からいかに安く購入するかにフォーカスが当てられていました。TCHOは、チョコレートの味はカカオ豆が決めるとして、生産国への投資や教育を強化しています。なかでも象徴的なストーリーは、「生産国の人々は、完成品のチョコレートを口にしたことがない」というものでした。

 カカオ豆がどのような製品になるのかを知らないため、「品質の良いカカオ豆」や「おいしいチョコレートになるカカオ豆」がどんなものか、生産地の人々からはあまり理解されていなかったそうです。そこでTCHOは、生産農家ともクラウドで結び、チョコレートの味の特性や生産に関しての情報を共有しながら、カカオ豆の品質を高められるような取り組みを続けています。

 単なる生産地と消費地という関係性から、チョコレート作りの最も大切なプロセスへと変化し、良質なカカオ豆を使うことができるようになったそうです。ここにも、テクノロジーによって距離が縮められ、情報が共有されるというメリットが利用されているのです。

 サンフランシスコ、シリコンバレーは、もちろん最新のテクノロジーやビジネスが生まれ、魅力的な発見に満ちあふれている場所です。一方で、テクノロジーがどんなビジネスに応用できるのか、テクノロジーから端を発したアイディアはどのように社会を変えるのか、といった新しい視点でテクノロジーが活躍する様子にも出会うことができました。

 テクノロジーの発展のパワーを様々な産業へ波及させるその活力は、日本でも見習うべき点が多いように思います。


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