サンフランシスコは、シリコンバレーから続くテクノロジービジネスのメッカであることは有名です。そして同時に、「新しいアメリカの食文化」の発信地になっていることでも知られています。
日本でも最近盛んに聞かれるようになったサステナビリティ(持続可能性)、地産地消、健康志向といったキーワードを惜しげもなく体現するように、サンフランシスコではこうした新しい食文化の構築と発展が活発に行なわれているのです。
今回ご紹介するサンフランシスコ市内にあるチョコレート工場「TCHO」(チョー)は、テクノロジーと食文化の高度な融合を見ることができる、非常にユニークな事例といえます。
オーガニック天国!
筆者は、2011年11月にサンフランシスコの少し北、バークレーという街に引っ越してきましたが、生の魚以外、食事に不自由したことはありません。もちろん「アメリカの食事なんて……」と大きな期待をしていなかったこともありますが、そういう意味ではオーガニック野菜が予想以上に充実している、というのが実際でした。
日本以上に安く、当たり前のように手に入れられるオーガニック野菜は、日々の食卓に彩りを与えてくれます。例えばスーパーでも、オーガニック野菜は通常栽培の野菜に比べて、10%〜15%ほど高い程度で手に入ります。日本では2倍にもなろうかという値付けですので、その身近さがおわかりになるでしょう。
筆者の住む街バークレーは、カリフォルニア料理の母と言われるアリス・ウォーターズ(ALICE WATERS)が1970年代に開店したレストラン、「シェ・パニーズ」(Chez Panisse)があり、ここで修行したシェフたちによって、新鮮、地産地消、持続可能性、そして何よりおいしい食文化を生み出しているのです。
テクノロジー meets チョコレート
こうした活発に進化するサンフランシスコの食文化の中に、テクノロジーが加わるとどうなるでしょう? 「新しいアメリカのチョコレート」を標榜するTCHOは、食文化の可能性とテクノロジーの新たな活用方法を見せてくれます。
TCHOは、NASAでソフトウェアエンジニアをしていたティモシー・チャイルズ(Timothy Childs)氏によって作られました。テクノロジーの知識を背景にして、ゼロからスタートさせたチョコレート作りには、非常に高い効率性と、ユニークなテクノロジーが生かされています。
TCHOの従業員数は30名あまり。この少ない人数で、カカオ豆の調達からチョコレートの生産と品質管理、マーケティング、販売までをこなしています。その背景には、高度にクラウド化された生産管理システムがありました。
TCHOでは、ゲーム制作のプラットホームを活用して工場内の工程を3D空間で再現し、各工程をライブカメラで中継し、従業員は工場内外のどこにいても、生産の様子を確認できます。また、温度管理も行なうことが可能で、iPhone/iPad向けアプリでモニタリングとコントロールを行なえるのです。
テクノロジーによる効率化は、オフィスではよく耳にする話ですが、食品生産をゼロベースから立ち上げる際に、こうした既存技術のマッシュアップによって非常に安価ながら高度な生産管理の仕組みを作り上げ、かつ管理をモバイル化する徹底ぶりには驚かされます。
