『とある科学の超電磁砲S<レールガン>』BD発売記念企画! 第2回
2万体の原料は?14日間で完成?妹達への疑問を鹿野司氏に聞く
妹達(シスターズ)は御坂美琴お姉様の夢を見るんですの?
2013年10月10日 18時00分更新
御坂美琴お姉様のクローンなんですの
まずは、本記事で取り上げるクローン、つまり「妹達(シスターズ)」について触れておこう。
『とある科学の超電磁砲S<レールガン>』、その1クール目の中核は主人公・御坂美琴のクローンである妹達(シスターズ)だ。
のっけからネタばらしをしてしまうが、妹達とは、御坂美琴の体細胞を利用したクローン人間。1クール目のキーワードの1つ“絶対能力進化実験”のために量産された妹達の生産数は約2万体。厳密には『劇場版 とある科学の禁書目録<インデックス>』などに登場した「打ち止め(ラストオーダー)」などを含め2万3体にのぼる。
劇中では、約14日間でオリジナルである御坂美琴と同様の肉体年齢になり、投薬や外部装置を利用して人格・知識を書き込まれる過程などが描かれているが、ここでいくつか素朴なギモンが湧く。
Q:2万体ものクローン人間を作るために必要な設備や原料の規模は?
Q:1体を14日間で完成させることは可能?
Q:クローンにもかかわらずオリジナルに著しく劣ることはありえるの?
Q:投薬で人格を形成できるの?
Q:外部装置で基礎教養を脳に書き込める?
Q:そもそも人間のクローンって作れるの?
まあ、魔術と科学が並存する世界の話なので『んなもんどうにでもならあ!』と投げっぱなしてもいいのだが、やはり現実世界の科学技術をベースに考察してみたくなるのが人情というもの。
そこで、クローンはもとより、科学技術全般に精通したサイエンス・ライター 鹿野司氏にお話を伺うことにした。同氏は星雲賞を受賞した科学考察の名著『サはサイエンスのサ』(早川書房)の著者である一方、幾多の映像作品にSF考証として参加するなど、“現実の科学技術とフィクションを結びつける”プロフェッショナルでもある。
今回、我々の素朴な疑問(というか無茶振り)にも的確かつウィットに富んだ解決策を示していただだいた。さあ、以下より鹿野氏無双の始まりですの!
今回教えてくださったのは ⇒ 鹿野 司(サイエンス・ライター)
1959年名古屋生まれ。サンエンス・ライター。科学、コンピュータ、SF誌を中心に、コラム、インタビュー記事を執筆。映画『ガメラ2』の科学考証なども手掛ける。現在、SFマガジンなどにコラムを連載中。著書に『オールザット・ウルトラ科学』(アスペクト)、『狂牛病ショック』(共著:竹書房)、『巨大ロボット誕生』(秀和システム)、『教養』(小松左京・高千穂遙共著:徳間書店)など。最新刊はSFマガジンでの同名連載をまとめた星雲賞受賞作『サはサイエンスのサ』(早川書房)。ブログは「くねくね科学探検日記」、Twitterアカウントは@sikano_tu
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サはサイエンスのサ鹿野 司(著)早川書房
現在のクローン技術についてお聞きしたいんですの
鹿野司 「動物のクローンには、ざっくり受精卵クローンと体細胞クローンがあるんですよ。受精卵クローンは、受精卵が卵割していく初めのころに、未分化の細胞をいくつかの塊に分けて作るもので、天然のクローン、つまり一卵性双生児も同じできかたですね。
でも今回の“妹達”さんのは、おそらく分化したあとの細胞を使う、体細胞クローンということでしょう。体細胞クローンは羊のドリーで世界的に話題になりましたけど、これはほ乳類初というだけで、カエルではイギリスのJ・B・ガードンさんが1960年代に成功しています。この方は、去年iPS細胞の山中伸弥さんと一緒に、ノーベル賞を受賞しました」
―― 1996年に生まれた羊のドリーさん以降、クローン動物が大きなニュースにならないのはなぜなんですの? あれ以来技術は進んでいないんですの?
鹿野 「技術は色々進んでいますが、話題にならないのは、単に体細胞クローンが常識というか、基本技術になったからでしょうね。マウスなどの実験動物で、遺伝子の働きを調べるような場合は、ほぼ必ず使う技術ですから」
―― そもそも人間のクローンは作れるものなんですの?
鹿野 「もちろん、やればできるはずです。原理的には可能。でも、現実問題としては無理なんです。
なぜなら、歩留りが悪いから。成功確率は技術改良が進んだマウスでさえ約5%足らず。ドリーは277分の1でしたが、これは動物ごとに違います。人間の場合は、成功確率を上げる技術開発もしていないので、もっと低いでしょう。
仮に5%まで上げられるとして、100個の卵子を用意してクローンの受精卵を作って成長させると、そのうち95人は死ぬか致命的な先天性障害をもって生まれます。そうなると解ってやる人々がいるとしたら、それはかなりイヤンな集団でしょう。
それに、今のところ、卵子だけを作る事はできないので、卵子提供の問題が出てきますよね。御坂美琴のクローンは何人いるんですか?」
―― 2万と3人ですの。
鹿野 「となると、排卵誘発剤で1回5個くらいの卵子を採取できるとして、5%の確率で成功するとしても、のべ8万人から卵子を採取する必要があります。それから卵子への核移植して、借り腹になってくれる女性も8万人用意して、それぞれの妊娠期間を経て、さらに成長する時間が必要です。
クローンだからといって、急速に成長させることはできません。中学生の御坂美琴と外見が瓜2つなら、当然クローン側も13~4年間の成長期間が必要です。まあ、魔法で時間の進む早さを変えられればいいかもですけど」
―― では、14日間でむくむくと急速成長することはないということですわね。ちなみに劇中ではカプセル内で中学生の外見まで育っていたのですけども、これはいわゆる人工子宮と考えてよろしいんですの?
鹿野 「そうですねえ。特定の種類の細胞だけなら、計算上は25時間くらいで人間1人分の個数にはなります。早ければ30分に1回のペースで分裂しますから。ただ、その塊には血管はないので、中のほうは酸素や栄養が届かず死滅してしまいます。今の技術では、細胞は塊ではなく、培養皿の上で、酸素も栄養も直接届けられる“膜”の形で増やしているんですよ」
―― それは知りませんでしたの。
鹿野 「それから、フィクションではよく試験管ベビーが登場しますが、ガラス管の人工子宮みたいなものは、実現不可能なんです。なぜなら、ほ乳類は子宮にいるときから、世界に対する学習が始まっているから。
妊娠中、子宮の中で赤ちゃんが動きますが、右手で子宮の壁を押すと、反作用で左半身が子宮の壁に押しつけられる。こういうことによって、脳内の神経回路の正常な関連づけができていく。このプロセスがないと……東大の研究で胎児のシミュレーターがあるんですが、子宮なしで育てた赤ちゃんは、“はいはい”ができなかったんですよ」
―― つまり、オリジナルとクローンがまったく同じ肉体年齢で出会うことは物理的に不可能、と。……編集さま。この企画、ここで終わっちゃいそうなのですけども、いかがなさいます?
編集 「面白いからよし」
西東京市民総ミサカクローン化計画発動!?
―― というわけで、実時間かけて成長するバージョンでお話を進めますの。クローンを作れたとして、2万人をどうこうできるものなんですの?
鹿野 「ざっくり計算して、人間は1日2.5kgほど飲み食いします。中学2年生にまで育てるのであれば約14年分でまあ、1人あたり13tあれば十分でしょう。これは流通で賄えばいいので、つまり2万人規模の都市を養うだけのインフラがあればいいということでしょうね。
それだと、たとえば西東京市の人口がほぼ2万人で、面積は15.85平方キロメートルだから……」
―― 無理なく暮らす面積を獲得しようとすると、西東京市民全員がミサカクローンに……。
鹿野 「翻って、『とある科学の超電磁砲S<レールガン>』の舞台である学園都市の面積はどれくらいですか?」
―― 学園都市は東京都の3分の1ほどの面積に230万人が住んでいると言われておりますの。単純計算で約729.3平方キロメートルになりますわ、鹿野さま。
鹿野 「そこまで広ければ、あちこちに御坂美琴のクローンがいてもおかしくありませんね」
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