キーボードが弾ける人のためのモバイル環境
―― ワークステーションというと家でチマチマ使うイメージで、電池駆動のメリットはどこにあるんでしょう?
中原 今はパソコンとnanoKEY※4を持って行けば、どこでも曲は作れると思うんですけど、やっぱりキーボードを弾ける人にとっては、nanoKEYよりもフルキーボードの方がいいわけです。その場合は、これ1台持って行けばパソコン要らないわけですよね。
川原 パソコンと比べて決定的に違うのは演奏性だと思うんです。プリプロを作るのにすごく便利なんですね。軽いという特徴を活かせば、家でプリプロを作ってスタジオに持って行ったり。バンドのメンバーと演奏してみて、違うなと思えばその場で直したりもできますから。
岡崎 これ1台あれば、とりあえずなんでもできる。そういうものを目指したんですね。弾き語りのライブだとミキサーが必要だったり、シーケンサーが付いていなかったり。本体を軽くしても、持って行くものが増えて、全体として軽くならない。だからKROSSにはマイクイン、ラインインも付けて、オーディオレコーダーも入れてしまいました。
―― ワークステーションというと、パソコンに比べると画面が小さいので、使いにくいというイメージもあるんですけど。
中原 パネルに並んでいるボタンも含めて、全体が画面だと思っていただければ、相当広いと思うんです。
―― あ、なるほど。
中原 今から10年くらい前の話ですけど、EMXやESX(Electribeの現行機種)は、僕や岡崎が担当でやったんですが、あの時のライバルがパソコンの音楽制作環境だったんです。だから、パソコンと同じ感覚で持っていけるサイズを目指したんです。今はそれも一巡りして、パソコンでやるよりこれ1台でやったほうが便利じゃない? という提案でもあるんです。そういった意味でステップシーケンサーとしてElectribeのようなボタンが付いているんですね。
―― ホントにボタンの配置がUIがElectribe的ですね。
中原 強力なアルペジエーターも入っていて、それだけでも結構面白いです。
泉山 シンセを初めて買う方には、長く遊べるんじゃないかと思いますね。オーディオレコーダーに関しては、MIDIと同期するオーディオトラックも考えたんですけど、あえて弊社のレコーダー「Sound on Sound」を入れてみたんですね。そのほうが分かりやすいなということで。
―― じゃあ、無限ループみたいなこともできるんですか?
泉山 はい、多重録音機能を持たせてあって、どんどん重ねていって、間違えたらUndoで戻していくという方式です。
―― 録音したファイルはSound on Soundのように、個別のトラックとしてエクスポートできるとか?
泉山 いえ、これは多重録音機能だけに特化したので、エクスポートすると1つのWAVファイルになります。
岡崎 演奏性で言えば、キーボードのスプリットとかレイヤーなんかも簡単にできるようにしてあります。それで音色をアサインすると自動でネーミングもしてくれます。
―― じゃあ、用途の広い音色をプリセットで用意しておいて簡単に、という方向の設計なんですか?
川原 いえ、ディープな音も入っていますし、エディットで作り込みもできます。企画の方からピアノ、エレピ、オルガンをしっかりやってくれと。そこは特にしっかりやっているんですが、すべての音色カテゴリーで初めて入るPCMが何かしらあります。中でも、ストリングスはグッとリアルになりましたし、ドラムとシンセは最近流行りのEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)やダブステップに使えるよう大幅にパワーアップしています。
中原 世の中でバンドって言うとギター、ベース、ドラムで「けいおん!」みたいな風に考えるんですが、男の子がPCでトラックを作って、彼女がキーボードを鳴らして、というユニットもいっぱいあるわけですね。
―― 最近のテクノ系のユニットは大体そんな感じですよね。
中原 だからシンセもどんどん変わって行かないと。それで女の子が歌うのなら、ボコーダーが入っていた方がいいね、とか。だから単に上の機種の機能を持ってきて、安く軽く作ったということではなく、軽いからこそ使って欲しい人達というのがいる。そこを考えて音色も作っているということです。
著者紹介――四本淑三
1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。
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