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Software Definedの未来は?EMC World 2013レポート 第4回

ビッグデータアプリケーションの苗床を開発中

ポール・マリッツCEOが語る第3のEMCカンパニーPivotalの野望

2013年05月08日 10時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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EMC World 2013の2日目の基調講演においてCEOのジョー・トゥッチー氏に引き続いて登壇したのが、PivotalのCEOであるポール・マリッツ氏だ。マリッツ氏は、EMC、VMwareとともに第3のEMCカンパニーとなったPivotalの戦略を存分に語り尽くした。

Software-Defined Datacenterの上位層に

 Pivotalはクラウドとビッグデータを前提とした新しいプラットフォームを開発すべく、2012年末にEMCグループの3つめの会社として設立された。名前の由来となるPivotal Labsはアジャイル開発に特化したコンサルティングファームで、2012年3月にEMCが買収している。

 新会社のPivotalは、Pivotal Labsの人材のほか、エンタープライズ向けのHadoopであるGreenplum DBやJavaの開発フレームワークであるSpring Frameworkなど、EMCとVMwareの資産を引き継いでいる。さらに、VMwareのCEOだったポール・マリッツ氏がCEOに就任。2日目の基調講演ではマリッツ氏が語るPivotalの戦略と開発中のプラットフォームである「Pivotal One」に注目が集まった。

米Pivotal CEO ポール・マリッツ氏

 マリッツ氏によるとPivotalが提供するプラットフォームは、EMCやVMwareが提供するSoftware-Defined Datacenterのスタックの上位に位置する。モバイル、クラウド、ビッグデータ、ソーシャルなどのITトレンドを前提とした第3のプラットフォームに向けて、「最終的にはデータを最大限に活かすアプリケーションにフォーカスする」(マリッツ氏)という。

 こうした新世代アプリケーションを実現するプラットフォームの構築には、GoogleやFacebookなどのパイオニアの取り組みを参考にする必要があるという。具体的な例として、マリッツ氏は安価に大量のデータをストアできること、アプリケーションを迅速な開発にできること、そしてスケールアウトを前提に自動化を推し進めることなどが必要になると指摘した。マリッツ氏は、「Googleはアプリケーションを展開するにあたって、まずオブジェクトストレージであるGFSでスケールアウトできる環境を開発した。Facebookでは入社した初日にアプリケーションを作ることが求められる」と例示した。

コンシューマーインターネットジャイアンツから学ぶ

 しかし、これだけでは新しい時代は乗り切れないという。マリッツ氏は、今後訪れるIoT(Internet of Things)の時代には未曾有の量のイベントをリアルタイムにキャプチャーする必要があると語る。「単にビッグなデータを保存するだけではない。スピーディにデータをプロセッシングするという意味では、ファストデータへの対応が欠かせない」(マリッツ氏)というわけだ。

 さらにエンタープライズで利用するにおいては、既存のアプリケーションを共存するとともに、さまざまなクラウドの選択肢が重要になるという。「30年前はIBMはすべてを牛耳っていた。同じようにAmazonに税金を払い続けなればならないという状況をユーザーは望んではいない」(マリッツ氏)。あくまで特定のクラウドとは独立させ、ロックインしないというのが重要なポイントになる。

高速なクエリ性能は10年の研究の結果

 Webジャイアンツに学んだインフラ構築やデータハンドリングの技術、今後来るIoTの時代でのファストデータのプロセッシング、そして既存資産や開発関連のエンタープライズ要件などを踏まえてPivotalから提供されるのが、現在開発中の「Pivotal One」になる。Pivotal Oneは、EMCとVMwareの資産を最大限に生かし、新世代のアプリケーションを展開できる包括的なプラットフォームになる。

 年始に発表されたPivotal Oneは、3つのファブリックから構成されているという。まずデータファブリックとしては、スケールアウト、コスト効率、信頼性という3つの要件を満たす「Pivotal HD」を用意する。Pivotal HDはエンタープライズ向けのHadoopであるGreenplum DBにインメモリでのトランザクションを実現するGemFire製品を組み合わせる形で構築されており、高いスケールアウト性に加え、高速なクエリ性能を持つ。

 Pivotal HDのHAWQ(Hadoop with Query)をベンチマークで調べると、HiVEやClouderaなどのHadoop実装に比べて10~100倍高速なクエリを提供するという。マリッツ氏は、「これはGreenplumが10年間クエリについて研究を続けてきた結果だ」と述べた。

データファブリックはGemFireとGreenplumで構成

HAWQでは高いクエリ性能を実現

 2つめのアプリケーションファブリックは、VMwareのSpring Fremeworkをベースに構成される。Javaベースの開発者コミュニティとしては最大のSpring Frameworkは、VMware時代からマリッツ氏も長らく関わってきた。マリッツ氏は「10年間かけて豊富なライブラリを用意し、あらゆるアプリケーションをつないできた。RubyやJavaScriptなどのさまざまな言語も利用でき、まさに企業向けのフレームワークだ」とアピール。Pivotal Labsの人材を活かしたコンサルティングと合わせ、効率的な開発体制を支援するという。

とことんオープンを目指すPivotal One

 そして、データとアプリケーションのファブリックのベースになるクラウドファブリックはアプリケーションのライフサイクル管理やサービスレジストリ、マルチクラウドでのデプロイなどを担う「緩い意味でのOS」(マリッツ氏)になる。また、Googleなどを例にノンストップでのアップデートやサービス運用を実現するのも大きな特徴。「スクリプトやチェックリストに依存しない。可能な限り、人間を介在させない全自動での運用を目指す」(マリッツ氏)という。

さまざまな選択肢を提供するクラウドファブリック

 クラウドファブリックで強調されたのは、ユーザーにとってさまざまな選択肢を提供する点だ。マリッツ氏は、「VMwareでは、ユーザーの要件に合うのであれば、EMC以外の競合ともビジネスをやってきた。(Pivotalでも)すべてに対してオープンにやっていく」と述べ、オープンソースや他のベンダーも含め、幅広い連携を模索するという。また、オープンソースのCloud Foudryをベースに、マルチクラウドをサポートする。「開発者のコミュニティもメインフレーム時代に戻るのは許さないだろう。さまざまなクラウドに対してポータビリティを提供する」(マリッツ氏)という。

Pivotal Oneの各製品はすでに利用可能になっている

 このようにPivotal Oneは、EMCやVMwareの資産を組み合わせ、統合化されたプラットフォームを構成している。提供は2013年第3四半期の予定になるが、Pivotal HDやGreenplum DBなど製品は個別に導入でき、必要なところのみ利用できるという。マリッツ氏の語るPivotalの野望が今後どのように加速していくのか、目を離せない。

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