今回は予告どおり「Prescott」について解説するが、その前にひとつ前回の補足をしておきたい。
NetBurst ArchitectureのALUに関する補足
Twitterで「倍速ALUが16bit分しかないと言うのは間違いだと思います。なぜなら32bitの演算を行なっても16bitと同等のスループットだからです」というコメントがあった。
上の図は「Intel Technology Journal Q1, 2001」の、「The Microarchitecture of the Pentium 4 Processor」から引用したものだ。Pentium 4では16bit幅のALUが、このように2段構造になっている。最初のALUがデータの下位16bit分を、次のALUがデータの上位16bit分をそれぞれ計算し、最初のALUからのキャリーフラグがタッチ経由で2つ目のALUに渡されるように構成されている。
この目的について同記事では、「大雑把に全μOpの60~70%がALU命令である」としたうえで「これを高速に実行するため、ALUはメインクロックの2倍の速度で動作し、しかも遅延が短縮できるため、結果として処理性能が上がる」と説明している。この仕組みをインテルは「Staggered add」(千鳥足加算)と呼んでいるが、このように物理的にALUは間違いなく16bit幅である。
ではなぜ16bit命令でスループットが上がらないのか?。それはあくまでこの仕組みは、「ひとつの32bitデータを2つの16bitデータに分割して倍速処理する」というものであり、「2つの16bit命令を倍速に処理する」ものではないからだ。分割するのはデータ幅のみで、命令そのものの発行速度は、この仕組みをもってしても倍にはならない。
そもそもx86では16bit命令だろうが32bit命令だろうが、命令そのもののサイズは変わらない。もし倍速で命令を発行しようとするとこのFast ALUのみならず、SchedulerやRegister Fileなども倍速で動かないと間に合わなくなる。技術的可能性としては、「Macro Fusionを使って、2つの16bit ALU命令をひとつの32bit ALU命令にまとめてしまう」なら可能だ。しかし、実際にはレジスタの割り当てなどを考えると非現実的だろうし、そんな機能はNetBurst Architectureには搭載されていない。誤解しやすい点であるが、この仕組みでも16bit演算のスループットは変わらないわけだ。
まるで変わっていない?
WillametteとPrescottの内部構造
それではNetburst Architectureにとどめを刺したPrescottの構造について解説しよう。インテルは意外なほど、Prescott世代のパイプライン構造を公開していない。2004年に公開された「Intel Technology Journal」の「Volume 08 Issue 01」は「Intel Pentium 4 Processor on 90nm Technology」と題したPrescott特集号である。その前書きにはこうある。
The papers discuss its microarchitecture including the thirteen new instructions referred to as SSE3 and the 31-stage pipeline
(この文章はSSE3として知られる13の新命令と、31段パイプラインを含むマイクロアーキテクチャーについて論じる)
それにも関わらず、肝心の31段の詳細は載っていない。

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