スピードこそ、望んできたもの
── IT企業として見た場合、IBM時代と比較してどうですか?
渡辺 「まずスピードがとても速いですね。それはまさに私が求めてきたものでもあります。大企業向けのシステムでは長期で取り組むことが多いですし、ビジネスの変化も時間をかけて推移していきます。
でもPCの分野は毎日毎日がドラマです。だからディシジョンもすごく早くしないといけない。昔だったら、100%の答えを作ってから物事に取り組んできましたが、いまは80点でもいいから速く進まないといけない。自分自身でもやり方を変えて行きました。そうしないと負けてしまう」
── グローバルで戦うと聞くと、規模の大きさばかりに注目が行きますが、グローバルだからこそ決定が早くなければならないし、数円、数銭のコストが積み重なれば相当な大きさになると言われる方もいます。
渡辺 「そうですね。開発は1セントにこだわりますよね」
IBM時代から変わらないこと、変わったこと
── 元々はIBM時代にThinkPadの開発にも携わられて、レノボでまたPC事業に関わることになった。その何年かの間にギャップを感じることはなかったのでしょうか?
渡辺 「そうですね。私が開発にいたのは1986年から90年代の前半までで、ThinkPadで言えば初代から3台目、4台目までとなりますね。1990年代の後半はThinkPadの販売マーケティングの責任者をやっていました。そこまでが私のPCの経験となります。
2000年以降はPC以外の仕事をIBMでやってきました。つまり12年強はPC業界から離れていた形になります。私としては戻ってきたという感覚ですね。戻りたかった。スピードの速さや刺激を求めてきたら、やはり速くて息絶えながらも全力疾走している感じですね。
開発に関しては直接はタッチしていないので、現場がどのくらい変わったかは分からないのですが、設計思想に関してはまったくと言っていいほど変わってないですね。
六本木でやっているような販売体制はどうかというと、IBMがPC事業をレノボに売った直後は落ち込んでいた時代があったと思います。数字的にも、雰囲気もそうだったかもしれません。それが今は明るくなっていて、ビジネスもものすごく伸びている。そして繰り返しになりますが、人材の多様化。ここはものすごく変わった部分だと思いますね」
── 当時から残られている方はどのぐらいいらっしゃるのですか?
渡辺 「開発はほぼ全員いますね。六本木のほうは一新されたと言ってもいいです」
── 製品は頑固一徹だけれども、売り方や打ち出し方が変わっているということなんでしょうかねぇ。でもそれってスゴイことだと思いますよね。日本メーカーを例にとれば、1年たてばまったく違う製品が登場する。そこをIBM時代から、敢えて変えずに続けられたということが。
渡辺 「以前、記者会見でも紹介したのですがThinkPadには3つのこだわりがあります。これは20年前から今まで脈々と受け継がれていることなんです。1つ目が堅牢性、2つ目がキーボードやトラックポイントの使いやすさ、3つ目がイノベーションです。
これは実は私が15年前にThinkPadのマーケットと販売をやっていたときに言っていたのと同じことなんです。私も変わっていない。
それはやっぱり、いいものはいいってことなんですが、最初に作ったコンセプトとこだわりのポイントが正しかったということの証明だと思うんですね。それがユーザーに受け入れられて、世界の法人ノートでは一番売れている製品になっています。
お客様が求めることを追究していくと、究極的にはこの3つのポイントに集約されていくということじゃないかなと思います」