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HVDC対応のサーバーは半年前から確実に増加

日本発の省エネ技術になるか?さくらのHVDC実験のその後

2012年09月26日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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昨年オープンしたさくらインターネットの石狩データセンターにおいて、外気冷却とともに注目を集めたのが、HVDC(高電圧直流給電)の実証実験だ。いよいよ本格導入への機運が高まるこのHVDCの最新動向や、各サーバーベンダーの取り組みについて聞いた。

データセンターより厳しいコンテナで安定稼働

 直流給電では、IT機器への電力供給を従来のような交流(AC)ではなく、直流(DC)で行なうことで、AC・DCの変換ロスを削減する。データセンターの省エネ化で大きな注目を集めている高電圧での直流給電(HVDC)の実用化をいち早く実験しているのが、さくらインターネットの石狩データセンターである。

石狩データセンターのコンテナ型の実験設備

 さくらインターネットでは敷地内にコンテナ型の実験設備を用意し、実際にHVDC対応の機器のみで構成したシステムを構築している。データセンターの母屋からの交流はいったんPSラックに供給され、そこで直流に変換。以降は、ACとDCの変換を一度も行なわず、PDU(Power Distribution Unit)を介して、集中電源へ電力を供給する。集中電源では12Vに変換され、サーバーなどのIT機器に給電されるというものだ。間にUPSは存在しておらず、交流に比べて10~15%程度の変換ロスを削減できる。

 このHVDCの実証実験は、未だに世界でも類を見ないユニークな取り組みで、国内だけではなく、グローバルでも注目されている。さくらインターネット開発部 開発第一チーム マネージャーの加藤直人氏は、実証実験の成果として、「当初から12Vサーバーの採用を目的に実験を進めてきました。現在、7社のベンダーさんにご協力をいただき、ある意味データセンターより環境がシビアなコンテナ内で、安定稼働の実績を作り上げることができました」と語る。

さくらインターネット開発部 開発第一チーム マネージャー 加藤直人氏

 昨年からのアップデートとしては、5月には太陽光パネルを追加したことが挙げられる。もともと太陽光発電は直流で提供されるため、今まではパワーコンディショナーで交流に変換していた。しかし、HVDCと組み合わせることで、高価なパワーコンディショナーを使わず、直流をダイレクトにデータセンターで利用することができるという。実証実験プロジェクトを手がけるNTTデータ先端技術 ソリューション事業部 グリーンコンサルティングBU HVDCグループ長 村文夫氏は、「太陽光発電とHVDCの組み合わせは、実験当初から大きなテーマになっていました。これが実現すると『地産地消』となり、晴れている日は太陽光発電の電力をそのまま消費し、足りない分のみ既存の電気で補えばよいことになります」と話す。今後も、世の中の最新技術をいろいろ導入していく予定だという。

NTTデータ先端技術 ソリューション事業部 グリーンコンサルティングBU HVDCグループ長 村文夫氏

基本的には「電源差し替え」でOK!

 そして、昨年との最大の違いは、HVDC対応のサーバーが増えてきたという点だ。当初、実証実験にサーバーベンダーとして参加したのはNECとNTTデータだけで、対応製品の少なさが普及への大きな課題であった。しかし、2012年2月には日本IBM、富士通などもDC12V対応のサーバーを実験に参加させている。これに関して、加藤氏は、「最初は弊社のHVDC電源を付けた自作サーバーをメインにやっていましたが、この半年でDC12V対応のサーバーが増えてきました。本格サービスの導入を控えて、心強く感じています」と話す。

 では、各ベンダーはどのような背景でHVDC対応を進めてきたのだろうか?HVDC対応のサーバーをいち早く投入したNECの場合、NTTデータ先端技術とのつきあいの中で、HVDC電源に対応したものを製品化したという経緯がある。NEC プラットフォーム販売本部 営業推進部長 塩津進氏は、「もともと弊社ではDC12V対応のサーバーを製品として持っており、NTTデータ先端技術様にも興味を持っていただきました。ですから基本的には大きな製品改造をすることなく、迅速に製品化にこぎつけられました」(塩津氏)と話す。現在NTTファシリティーズの380VのHVDC電源と接続可能なDC12V対応のラックマウントサーバも用意しつつ、最新のSandy Bridge世代のモジュールサーバーにおいてもDC12V対応の製品化を予定しているとのこと。「国内ではやはりNTTグループ全体でHVDC普及を推進いただいているのが大きいです」(塩津氏)とのことだ。

NEC プラットフォーム販売本部 営業推進部長 塩津進氏

 ネットワーク機器ベンダーでDC12V対応のスイッチを提供している日立電線も、過去DC48VやAC100Vなどの電源を採用した製品をラインナップとして用意していたため、対応は比較的容易だったという。日立電線 情報システム営業統括部 パートナー営業部 課長の上田元二氏は、「お客様からのリクエストがあったので、装置レベルの省エネはこれまでも進めてきました。今後、システムレベルの省エネ施策でなにかできないかという考えていた時に、プロジェクトへのお声がけをいただきました」と参加の経緯を語る。こちらも電源ユニットのみを変更しているので、今までと使い勝手が変わらないという。現在ではHVDC対応の機種は5モデルにまで拡大しているという。

日立電線 情報システム営業統括部 パートナー営業部 課長 上田元二氏

 2012年4月から石狩データセンターの実証実験に参加している日本IBMは、数年前から380VのHVDCに対応した製品の開発を進めていたが、標準化動向や安全性の課題から、製品化までは行き着かなかったという。しかし、昨年NTTデータ先端技術と打ち合わせを行なった際に、同社のHVDC技術の安全性を確認できたことで、12V対応サーバーの製品化に進められたという。日本IBM アライアンス事業 アライアンス・テクニカルサポート アドバイザリーアーキテクト 藤井康平氏は、「グローバルのチームと連携をとりつつ、日本主導でNTTデータ先端技術様と電源の開発を進めました」と話す。

日本IBM アライアンス事業 アライアンス・テクニカルサポート アドバイザリーアーキテクト 藤井康平氏

孤軍奮闘のさくらに続く事業者は?

 このようにHVDCへの対応が徐々に進んでいる現状について村氏は、「(HVDCは)従来に比べて安く、安全に省エネが実現できるというメッセージがベンダーに届き始めているからだと思います。また、ほとんどは電源交換のみで対応できる点もメリット」と語る。実際、実証実験の開始以降、データセンター事業者からの問い合わせも増えており、確実に関心は高まっているようだ。

通常のサーバーの電源(左)と比べても、HVDCの電源(右)はシンプルだ

 とはいえ、高電圧直流の安全性に関してはいまだに根強い懸念があり、標準化作業も端緒に立ったばかりだ。また、データセンター用UPSの変換効率も高まっているし、なにしろコストがまだ商用化の大きな課題である。

 こうした背景もあり、グローバルでもHVDC導入の動きはほとんどなく、さくらインターネットがまさにリーディングケースとなっている。しかし、これをチャンスと捉えることも可能だろう。将来的に、商用サービスで実績を積めば、日本発のデータセンター省エネ技術として世界に発信していける可能性を秘めている。

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