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新たな科学的知見を得るeScienceを実践

マイクロソフトリサーチが挑む大量データ時代の科学研究

2012年09月12日 09時00分更新

文● 渡邊利和

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9月11日、マイクロソフトの中で基礎研究を担う研究組織「マイクロソフトリサーチ」の産学連携部門「マイクロソフトリサーチコネクションズ」のバイスプレジデントのトニー・ヘイ博士が、同社が取り組む自然科学分野での産学連携の取り組みや、コンピュータを前提とした現在の自然科学研究手法のありようなどについて説明を行なった。

データ集約が引き起こす「第4のパラダイム」とは?

 エンタープライズITの分野では「ビッグデータ」が注目のキーワードとなっているが、自然科学研究の分野でも事情は同様のようだ。トニー・ヘイ博士は「科学データの津波(A Tidal Wave of Scientific Data)」という言葉でこの状況を紹介し、この状況を受けて科学研究の手法が“4段階目(4th Paradigm)”に入ったと言う。

米マイクロソフト マイクロソフトリサーチ マイクロソフトリサーチコネクションズ バイスプレジデント トニー・ヘイ博士

 最初の段階は「経験的な科学(Experimental Science)」で数千年前から続く手法であり、ここでは「自然現象を記述する」ことが目的だった。次に、「理論的な科学(Theoretical Science)」が数百年前から始まり、自然現象を数学的に記述するようになった。3段階目が「コンピューティングによる科学(Computational Science)」で、最近数十年で実現し、複雑な現象をコンピュータによるシミュレーションによって理解できるようになってきた。そして、現在は4段階目の「データ集約型の科学(Data-Intensive Science)」で、さまざまな手法で収集された大量のデータから新たな科学的発見が行なわれるようになっている。

科学研究の手法の歴史的変遷とeScienceの概要(書籍『The Fourth Paradigm』に収録されているJim Gray氏作成の図版。同書籍はクリエイティブ・コモンズとしてhttp://fourthparadigm.org/)にて全文が公開されている)

 こうした大量データに基づく研究手法を「eScience」と呼んでいるが、これは「データの連携や共同作業を支援するツールや技術のセット」だと説明されている。さまざまな組織や研究機関が収集した大量のデータを組み合わせて解析することで、単独では得られなかった知見が得られる、というあたりはビッグデータという文脈で語られている話とまったく同一の構造だ。ここで重要になるのは、データ解析やデータマイニングの技術や、ビジュアライゼーション(可視化)といったコンピュータ寄りの技術であり、研究者が必要なデータを利用できるようにするためのコラボレーションであったり法制度の整備であったりする。

 ヘイ博士は、マイクロソフトリサーチが関与したさまざまな研究プロジェクトの成果を紹介しながら、こうしたeScienceの手法が新たな科学的知見を得るために重要な貢献を果たしていることを紹介した。

天文学・宇宙観察分野の大量データ活用

 個人的に印象に残ったのは“World Wide Telescope(http://www.worldwidetelescope.org/)”という取り組みだ。これは天文学/宇宙観測分野で収集されている大量データを可視化するツールで、実際にWebサイトに行なって見るとWebクライアントという形で体験できるようになっている。

WorldWide TelescopeのWebクライアント

 インタラクティブなプラネタリウムといった感じだが、ベースとなっているデータは可視光線領域だけではなく、さまざまな波長の電磁波などの観測データが組み合わされ、本来は目に見えないものをCG画像として可視化しているということになる。こうした画像はNASAが公開する宇宙観測の成果として見かけるし、最近では火星探査機「キュリオシティ」が送信してきた火星の風景も見ることができるようになっているが、実は人間がその場に立ったらあの画像と同じ光景を肉眼で見られる、ということではなく、本来は目に見えない情報まで盛り込まれていたりするわけだ。

 コンピュータは、人間よりも高速な演算を実現し、さらに大量データを保存できるようになった。「演算能力」と「記憶」の2つの分野で人間の能力を拡張したわけだが、eScienceの時代に入り、大量のデータに対する高度な演算結果をビジュアライズするという形で、本来なら人間が知覚できない自然の姿を映し出し、「知覚/認識」の面でも人間の能力を拡張しつつある、ということだろう。

 マイクロソフトリサーチの研究成果は、当然同社の製品開発にも活かされているが、あくまでも基礎研究のための組織であり、より長期的な視点での研究を行なっている。実際に今回の説明では、直近の製品開発への応用や経済的利益ではなく、「コンピュータを活用することで何ができるようになるのか」という根源的な好奇心に基づく探求が今でも精力的に続けられているのだと感じられた。

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