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IPv6への移行は2000年問題に似ている?

世界初の通信事業者AT&TはIPv6にどう向き合うのか

2012年05月02日 06時00分更新

文● あきみち/Geekなぺーじ

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モバイルとIPv6の関係とは?

Q: モバイル通信の話が出ましたが、LTEサービスがIPv6とともに提供されることが将来的に増えるとお考えですか?また、御社でIPv6サービスをLTE上で行なわれる予定はありますか?

 はい。その意見には賛成です。

 私が約1年後にIPv6対応機器が増加すると先ほど発言したのは、LTEを念頭に置いたものです。

 それには2つの側面があります。1つ目は、ユーザーがIPv6ネットワークへのアクセスを利用するというものです。そして、もう1つ目は回線上に流れる通信がどういったアーキテクチャによって運ばれているかというものです。

 そのうち、モバイル網でユーザーがIPv6を利用できる環境は増えるでしょう。そして、モバイル網はユーザーが増えている分野です。

Q: モバイル端末にネイティブIPv6接続が増えるとのことですが、アプリケーションがIPv4で動き続ける可能性があるため、モバイル端末に対してはIPv4アドレスも必要になるケースがあると思われます。そのような環境を想定し、モバイル端末の中でIPv4/IPv6変換を行なうような「464XLAT」が提案されていたりします。そうなると、モバイル端末までの通信はIPv6ネイティブ通信のみでありながらも、アプリケーションが行なう通信はIPv4でも行なわれるという風になります。モバイル端末に対するIPv4サービスおよびIPv6サービスはどのように提供されていくと予想されていますか?

 互いの通信相手を明確に知れるようにIPv6ネイティブ同士での通信が望ましいのですが、現在のインターネットにはIPv4のみでサービスが提供されている機器が大量に存在しています。

 そのような環境に適応する手法として、モバイルデバイスがデュアルスタックで動作する方法と、モバイルデバイスがIPv6で接続されつつもNATを利用してIPv4インターネットとの通信サービスが提供される方法の2つが考えられます。

 現時点での技術的な推移を見る限り、後者が有力です。

 しかし、そもそもモバイル端末がどのように接続されているかを見て行くと、モバイル端末がインターネットと接続される形態にもさまざまなものがあります。モバイルデバイスが基地局から基地局へと移動するのに伴って、モバイルデバイスに実際に付いているアドレスが変化していきつつも、アプリケーションからは同じIPアドレスで通信しているように見える「Mobile IP」のようなテクノロジーもあります。3GPPのようにトンネル技術を活用したテクノロジーもあります。

 同様に、キャリアがIPv6を利用して伝送部分を実装したとしても、ユーザーはそのことに気がつかないだろうと思います。そのため、下位で利用される仕組みが何であれ、ユーザーがネイティブなIPv6接続と、何らかの形でのIPv4接続を実現されていれば大丈夫ではないでしょうか。

Q: 次は質問を大きく変えまして、IPv6化を推進されるということですが、IPv6化およびIPv4/IPv6デュアルスタック化における注意点を教えてください

 私たちは、多くのエンタープライズがデュアルスタックを採用従っていると考えています。それは、完全なIPv6への移行が困難であるためです。

 完全なIPv6への移行を実現するには、既存のすべてのアプリケーションがIPv6で動作する必要があります。私は、もっとも重要なアプリケーションはネットワークマネージメントだと考えています。IPアドレスはネットワークマネージメントにおける非常に根本的で重要な要素です。ネットワークマネージメントは、私たちの顧客がデュアルスタックにしたがる大きな理由の1つです。

 IPv6への移行は、Y2K問題(2000年問題)に似ています。Y2K問題のときには、日時情報が問題でした。IPv4からIPv6の場合は32ビットから128ビットへの変更です。すべてのアプリケーションが正しく動くかどうかを完全に確認するのは困難であることから、すべてを切り替えるのではなく、デュアルスタック化が支持されています。

 将来的には古いプロトコルであるIPv4をすべて撤廃したい組織も登場すると思いますが、それは10年以上後のことになるでしょう。

Q: IPv6に関連して、これまで何か「はまった」問題はありますか?

 最近、私たちは多国籍企業に地域ごとのIPアドレスを取得するように勧めています。当初、1つのレジストリからIPアドレスを取得し、組織全体でそれを使うようにしていましたが、ISPによっては、他の地域で取得したIPアドレスの経路広告を受け付けないところもあります。たとえば、ARIN地域で取得したIPアドレスを他の地域で経路広告しようとしたら受け付けられなかったということがありました。

 もう1つIPv6で大きく異なるのは、マルチホーム環境における問題です。IPv4ではNAT機器が存在しており、IPv4アドレスのソースアドレスはNAT機器に応じたものが使われます。それによって同じ方向でトラフィックが通ることを保証できます。一方、IPv6では、マルチホーム環境で、NATが利用されずにグローバルIPv6アドレスがつくので、結果として経路が非対称になることがあります。

 たとえば、香港と東京に企業のゲートウェイがあり、香港から出て行くトラフィックは香港へと返って来ることが望ましい場合でも、IPv6ソースアドレスによっては東京へと返ってしまい、東京にあるファイアウォールはセッション情報を保持していないため、パケットが破棄されてしまう可能性も考えられます。

 このように、IPv4では存在しない問題もIPv6にはあるので、そういった部分も考慮したデザインが必要になります。

Q: 最後の質問ですが、昨年のWorld IPv6 Dayに続き、今年はWorld IPv6 Launchが開催されますが、それによってIPv6トラフィックは増えると思いますか?

2012年6月6日に開催される「World IPv6 Launch」。この日以降、ISPやWebサービス事業者、ネットワーク機器ベンダーなどは、恒久的にIPv6を有効にするという

 昨年開催されたWorld IPv6 Dayは1日だけWebサイトをIPv6で公開するというものでしたが、弊社もいくつかのWebサイトをIPv6対応しました。そのうちのいくつかは、World IPv6 Day以降もIPv6で公開し続けました。

 今年のWorld IPv6 Launchでは、世界中で多くのIPv6でWebサイトが公開され続けるようになるので、世界的なIPv6トラフィックは増加するものと思われます。

 ●

 限られた時間内であるとともに通訳の方を挟んでのインタビューだったこともあり、多少質問したかった内容と頂いた回答がずれている部分もありましたが、個人的には面白かったです。

 私の興味がIPv6を取り巻く状況そのものであった一方、先方の想定環境がグローバルエンタープライズであったという点も多少フォーカスがずれた要素だったとは思います。そこら辺の背景を十分にふまえた質問を構成できなかったのは私の方ではありますが。

 IPv4アドレス在庫が枯渇し、これからのIPv4インターネットを取り巻く状況が変化することで、IPv6に対する取り組みが世界的に増えていますが、今後もさまざまな企業によるIPv6動向を見守りたいと思います。

筆者紹介:あきみち


 「Geekなぺーじ(http://www.geekpage.jp/)」を運営するブロガー。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。最近は通信技術、プログラミング、ネットコミュニティ、熱帯魚などに興味を持っている。Twitter IDはgeekpage(http://twitter.com/geekpage/)。


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