ところが問題のRage Fury MAXXは、図3のような構成になっていた。2つのGPUをブリッジチップすら介さず共有バス形式でつなぎ、おまけにそのバスはAGP 4Xである。いろいろな意味で掟破りの構成だったわけだ。
なぜこれが可能になったか? ATIはRage Fury MAXX用に、デバイスドライバーにいろいろと手を入れたからだ。デバイスの初期化ルーチンを初めとして、Read/Writeもこの構成をサポートするように変更した。チップそのものもRage 128 Proと完全に同じではなく、それぞれ別のIDを返すような小変更が行なわれており、このIDをキーとして個々のチップへアクセスするという、かなりトリッキーな構成だった。
この構成による効果は大きかった。画面解像度が大きい場合や32bitカラーの場合、Rage Fury MAXXはDirectX 6対応までにも関わらず、DirectX 7.0対応のGeForce 256を上回る成績を出しており、確かにつなぎとしての役割を十分にはたした。
にもかかわらず黒歴史入りしたのはなぜか? やはり構成がトリッキーすぎたためだ。先にドライバーに手を入れたと述べたが、これはATIがリリースしたドライバー自身のみならず、マイクロソフトの持つWindows用のカーネルドライバーにパッチを当てる機能を持つソフトウェアまで含まれた。Rage Fury MAXXはそこまでしないと動作しなかったのだが、これはWindows 95/98系列までは、ハードウェア管理が大雑把なために可能だったという側面があった。
だがこの問題は、Windows 2000が登場したことで大問題になった。Windows 2000はWindows NT系列の構造を引き継いでおり、Windows 9x系列に比べてはるかに厳密にハードウェアを管理していた。そのため、Windows 9x系列で可能だった“カーネルドライバーへのパッチあて”が、不可能になってしまった。結局これが理由で、Windows 2000上で動くRage Fury MAXXのドライバーを開発するのは不可能と判断され、ATI自身が「技術的な問題により、Windows 2000用のRage Fury MAXXのドライバーは提供しない」と明確にアナウンスすることになる。
技術的には、片方のGPUを殺して“単なるRage Fury Proカード”として使うことは可能であったし、実際そうしたドライバーも後追いでリリースされたケースもあったようだ(Rage Fury Pro用のドライバーを入れたら動いたため)。しかし、それではRage Fury MAXXである必要性は皆無である。2000年7月には、後継となるRADEON 256の出荷も始まった。開発やサポートはこちらにシフトしたこともあって、Rage Fury MAXXはすぐに販売終了となり、ATIもこの構造的な問題をあまり話題にされたくなかったのか、すぐに“なかった製品”にしてしまったのも、無理ないことであろう。
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