このページの本文へ

前へ 1 2 3 4 次へ

“リスペクト”を見える形に――進化する「ニコニ・コモンズ」

2012年02月22日 12時00分更新

文● まつもとあつし

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

著作物に関する疑問にどう応えるか

「ステマキャンペーン」と思い切った広告が打たれた「ニコニ広告」。これを支援する動画に付与すれば、動画の人気度はあがり、仮にUP主が奨励プログラムに参加していれば、受取額が上がる可能性が高まる。間接的に応援をすることができるわけだ

―― しかし、それにしても、この奨励プログラムはニコニコ動画にとって実はかなりインパクトの大きな出来事です。一部のユーザーからは疑問の声も上がっていますね。

 そうですね。懸念はとてもよく分かります。わたしたちも、ですから大々的に「みなさん、参加してください」と謳っていないのはそのためです。少しずつ、ユーザーさんの理解が拡がるなかで、かつニコニコの文化を壊さないように配慮しながら、利用がじわじわと広がっていくといいなと考えています。


―― Togetterにもまとめができましたが、「他人の著作物を自分が作ったもののように素材ライブラリーに登録して、親になりすます」といった行為に対してはどのように対処するのでしょうか?

 この話はニコニ・コモンズの各機能が連携した事例なので混乱しがちなのですが、まず、素材ライブラリーの話としては、他人の著作物を許可なく素材ライブラリーに登録することは犯罪です。ニコニ・コモンズの利用規約においても、こういった行為は禁止しています。

 奨励プログラムへの参加に関わらず、正当な権利を持つ方から権利侵害の申立があれば、素材ライブラリーから削除させていただきます。こちらは従来のニコニコ動画の方針と同じですね。コンテンツツリーについては、親設定する際は、せっかくリスペクトの気持ちを伝えられるので、相手をちゃんと見て、そういった偽物を避けるようにしてもらえればと思います。

 最後にクリエイター奨励プログラムとしては、一定額以上の奨励スコアを付与する前には、規約違反がないか確認させていただきます。よそから取ってきたようなコンテンツを登録されている場合は、奨励の対象になりません。疑問がある場合は、付与を保留し確認の連絡をする場合もあります。あくまで奨励であって、わたしたちが応援したいクリエイターを応援したい。先ほどお話ししたように、ロイヤリティーのように計算して自動的にお支払いする仕組みをとっていないのは、そのためです。

 奨励というのはリスペクトの1つのカタチではあるのですが、根本は以前から変わらず、オリジナルの作品を作った人と、それを利用する人との間の「メッセージング」の仕組みを強化したというのがより意味としては大きいと思います。従来の著作権やクリエイティブコモンズの仕組みとは異なり、著作者と利用者が都度コミュニケーションを取りながら、柔軟にコンテンツをみなで利用していく、そんな場になってくれると良いなと思っています。

2008年に「公式な黙認」を謳ったニコニ・コモンズと同じく、柔軟な著作権の運用の仕組みをニコニコ動画は実現しようとしている

 いかがだろうか?筆者自身も、ネット上の反応を見るに、ニコニコ動画の独特な文化、空気に大きな影響を与えるのではないかと感じたが、中の人にじっくり話を聞くことによって、ニコニコ動画自身がかなり気を使いながら取り組んでいることが分かった。

 インターネットでのデジタルコンテンツの流通は、長らく課題を抱えている。WinnyやShareのようなP2Pネットワークで海賊版が出回っていることはすでに10年以上権利者を悩ませている。そして個人でも商業作品に匹敵するような作品が生み出せるようになった中、この悩みは大手企業だけに留まらなくなっている。

 この取材のあと、「Gumroad」という非常に簡単にコンテンツを直販できるサービスが話題となったが、個々のコンテンツ制作者にとって有料販売が気軽にできることは大きなメリットである反面、第三者によるなりすましもでき、かつそれに気がつかないリスクもはらんでいる。

 筆者は少なくともニコニコ動画が“審査”を行ない、不正なコンテンツには奨励金を支払わないことを表明していることを評価したい。もちろんそれは100%とは言えない部分もあるが、運営者が介在せず即座に決済されてしまうGumroadと比較すると、審査や巡回監視にコストをかけていることの意義が見えて来るのではないだろうか?

 さらに問題を複雑にするのは、現在人気コンテンツの多くが複数の権利の集合体になっていることだ。二次創作やMADが投稿されるニコニコ動画において、コンテンツツリーがその権利の所在に加えて、リスペクトまでサポートすることが果たして有効に機能するのか、注意深く見守る必要があるだろう。

 これらの課題については、検討の進む日本版フェアユースや、ここに来て議論が熱くなっているTPP(そして廃案となったがSOPAなども)の影響も今後考えて行かなければならない。ニコニコ動画という空間の中で進む、ニコニ・コモンズの進化も含めて捉えていくと、著作権の1つの未来像が見えて来るかもしれない。

前へ 1 2 3 4 次へ

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン