HP CLOUD & INNOVATIONレポート(2)

HPを含め世界のIT企業が狙うのは、日本を除くAP圏?

渡邊利和

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10月18日にシンガポールで開催された「HP CLOUD & INNOVATION」(HPクラウド&イノベーション)では、APJ(Asia Pacific and Japan)のメディアを対象としていたこともあり、「HPはアジア太平洋地域に向けてどのように活動するのか」が重点的に語られた。

世界が注目する急成長市場

 米国のIT企業では、一般にアジア太平洋地域(Asia Pacific)のことを“AP”ないしは“APAC”と略称し、北米、ヨーロッパと並ぶ3大市場の1つと位置づけるのが一般的だ。これは、単純に地理的な分割だが、地理的に近いということは文化的な関係も深く共通点が多いのも確かだろう。物流その他の都合からも、地理的な観点で世界を分割するのはそれなりに理にかなったことではある。なお、上記の分類ではもれている中近東やアフリカ大陸は、おもにヨーロッパと一緒に扱う例が多いようで、EMEA(EU, Middle East and Africa:エミアと発音することが多いように思う)という語もよく使われる。

AP圏の企業にクラウドへの移行支援を強力に展開すると語るウォルフガング・ウィットマー氏(Woldfang Wittmer, Interfim Senior Vice President & General Manager Enterprise Servers, Storage & Networking, Hewlett-Packard Asia Pacific & Japan)

 さて、世界経済は急速な減速局面に入っており、ギリシャ問題に揺れるEU圏や、サブプライムローン問題に端を発した米国経済の不調などが日々報道される状況だ。AP圏もこうした世界経済の動向と無縁ではないわけだが、一方で北米/EUに比べるとまだまだ経済的には堅調で、それ故グローバル企業各社は「今はAP圏でしっかりビジネスを展開しないと」という具合で注目が高まっているわけだ。

 今回の「HPクラウド&イノベーション」は、まさにそのAP圏での同社の存在感を強烈にアピールする機会ともなった。HP APJ(Hewlett-Packard Asia Pacific & Japan)のシニア・バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのウォルフガング・ウィットマー氏は、AP圏の急速な経済成長(特に中国の伸びが顕著)やソーシャルメディア/サービスの利用がAP圏で急拡大していること(Facebookのユーザー数ではインドネシアが米国に次いで世界第2位)、AP圏でクラウドに対するデマンドが急速に高まっていること(北米やEUを上回る規模)、といった現状を紹介しつつ、この地域のユーザー企業に対してHPがクラウドへの移行支援を強力に展開していくことをアピールした。

 同氏はAP圏の企業も急速にグローバル化しつつあるという現状認識をふまえ、「AP圏の企業がグローバル企業を目指していく上では、グローバル企業による支援が重要になる」と語り、HPがこの地域でサービス/サポートを提供していくことが地域企業にとってどういう意味を持つのかを明確にした。

 AP圏の状況については、ゲスト後援者という位置付けでプレゼンテーションを行なったフォレスター・リサーチのアナリスト、ミッシェル・バーンズ氏も印象的なデータを紹介していた。世界の中で現在IT支出の伸び率が大きい国はどこか、というもので、伸び率トップ5のうちの4カ国がAP圏の国だという。伸び率世界第1位は南米のブラジルだが、以下、中国、韓国、インド、オーストラリアと続き、2~5位をAP圏が占めている。

IT支出の伸び率を解説するミッシェル・バーンズ氏(Michael Barnes, Vice President, Principal Analyst, Forrester Research)

 一方、日本はイギリス、イタリア、スペインの下で、トップ10にすら入らない状況であった。バーンズ氏もさすがに無視はできないということか、「日本はこの10年ほど不調だが」と断わりを入れるほどだった。とはいえ、同氏によれば世界の大手IT企業の売上の20~25%はAP圏でのものとなっており、IT業界にとってAP圏を無視したビジネスはすでに成り立たなくなっていることを示した。

バーンズ氏プレゼンテーション「世界のIT支出の伸び率の大きい国ランキング」

APJかAPCか

 AP圏でのITの発展は目覚ましいが、それは実のところ日本を置き去りにして進行している。そうした状況を受けてか、イベントに参加した日本人記者の中には“APJ(Asia Pacific and Japan)”という表記にすら違和感を覚える人も出たようで、「いつまでも日本が特別扱いではなく、今後はAPC(Asia Pacific and China)になるのでは」という声も聞かれた。

 APJという表現からは、“アジア太平洋地域の中でも日本だけは別格”というニュアンスを感じるのかもしれないが、別にこれは日本の優越感の表われではないだろう。むしろ単純に歴史的経緯というべきで、アジア地域の中では最初に巨大市場に成長した際に、AP圏で有力市場といえるのは日本だけ、という時期が長く続いた結果である。

 “域内での最大市場を別格とする”のであればAPJはAPCに改めるのが適切かもしれないが、そういうことでもないだろう。むしろ、企業内の組織構成の問題だったりすることが一般的だ。ただし、昨今の日本の景気低迷を反映してか、外資系IT企業の組織は日本を独立させる形の組織からAP/APACの地域組織の下位に位置付けし直す例も増えているようではある。

 そうした事情はともかく、日本を他の国と同列に扱うのが必ずしも正しいとは限らない、と感じられる局面もあった。HPではデータセンターの変革の支援に力を入れているが、データセンター分野で同社も積極的に取り組んでいるはずの「モジュラ・データセンターの実装技術」や「外気冷却/自然冷却の採用」といったテーマには今回のイベントではまったく言及されなかった。

 この点について同社のモーハン・クリシュナン氏(Mohan Krishnan, Vice President and Managing Partner, Technology Consulting, Technology Services, Asia Pacific and Japan, Hewlett-Packard Company)に聞いてみたところ、「自然冷却が有効なのは比較的寒冷な国であり、AP圏の多くでは自然冷却に対する関心はあまり高くない」とのことだった。

 日本国内では、PUEをドラスティックに改善するためには広範な自然冷却の採用が不可欠、という認識が広まりつつある。自然冷却を中心に据えた最新設計のデータセンターの建設も、相次いで発表されている。同時に、ITベンダー各社による実証実験も精力的に進められており、首都圏近郊でも盛夏の時期を除く9カ月程度は自然冷却の採用が可能、という結果も得られている。

 東京近郊に住んでいる人は、「東京の気候は寒冷だ」などまったく信じる気にはならないだろう。しかし、今回のイベントは10月中旬で、東京でもさすがに肌寒さすら感じることも増えてきた時期だ。だが、シンガポール到着時の気温は、日没後だったにもかかわらず30度を超えていた。この気温だけなら実のところさほどのことではないが、驚いたのは湿度だ。空調の効いたホテルから一歩外へ出ると、そのとたんに眼鏡が真っ白に曇ってしまうのである。冬場にラーメン屋に入った時のようだ。気温が同じでも、湿度が高いと冷却は難しくなる。この点を考えても、日本と同じような自然冷却のシステムをシンガポールで運用するのは難しそうだ。

日本独自の取り組みの必要性

 経済的には、これからIT市場が加速度的に立ち上がっていくAP圏各国とすでに成熟段階に入っている日本が同じ成長率を維持できるとは思えない。また、AP圏といっても地域内の北限に位置する日本と赤道直下の国々では最適なデータセンター・ファシリティが異なってくる可能性もある。

 そう考えれば、日本向けのソリューションやサービスが他の国向けのものと違ってくることにも相応の合理性があるということになるだろう。HP APJの取り組みは、言葉の上では日本を独立して扱っているように見えるが、少なくとも今回のイベントの中では日本だけを別扱いするというメッセージは聞かれなかった。

 もちろん、AP圏広域で共通する部分も少なからずあるのは間違いないだろうが、日本独自の取り組みが必要な部分が皆無になることもないだろう。これまで日本はそうした差異の部分にことさらに注目し、“ガラパゴス化”と独自進化をよしとする方向を目指しがちだったのは確かだろうが、そうした差異をすべて無視して完全になくしてしまうのも現実的とは思えない。

 日本経済の不振が長く続いていることで、日本市場の発言力が低下しているのは間違いないだろう。だが、発言力が下がったせいで、市場が必要とするソリューションが提供されなくなってしまった、という状況に陥らないよう期待したいものである。

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