アニメバブルから時代が一巡?
―― 90年代にはたくさんのアニメーションが作られるようになって、皆が観たいアニメの方向性がわかってきた。そこでジャンルごとにターゲット層を決めて、萌えなら萌え、バトルならバトルと、それに特化したアニメーションが作られていった歴史があります。その流れが、ここに来て再び王道に帰ったということでしょうか。
難波 王道回帰というだけでもないと思います。今も、王道とは正反対の、たとえば、少女たちが世界の運命を背負って悲劇的な結末を迎えるような作品も支持されているわけですから。いつの時代も、アニメーションには両方必要なんだと思うんです。光も闇も、表も裏もあって、両方がそろって初めて健全な映像媒体になっていくんだと思うんです。
©2011 桜庭一樹・武田日向・角川書店/GOSICK制作委員会
―― アニメのファン層は細分化されていった気がします。昔は、アニメがアニメファンのものという感じではなくて「未来少年コナン」などもみんなで見ていました。アニメのファン層は、そういう意味では狭まっている?
難波 どちらかというと、今までのオタク系のアニメを知らないような人たちまで入ってきてくれたのかなと思います。なぜなら、昔で言う“みんな”は、若者までだったから。昔は、アニメというのは子供が見るもので、大人が見るものではないという、今から思うと“勘違い”が多かったじゃないですか。
それが今は30~40歳になった大人の方も見ている。そもそも、昔の自分が50歳の大人ってこうだろうなというのと、今の50歳で違いますよね(笑)。今は、親世代も普通にアニメを見ています。「GOSICK」も、親子で見ている人もいる印象もあるんですね。
―― アニメーション自体の有り様が変わったのでしょうか。
難波 作品の作り方は今も昔も変わっていないのではないかと。アニメーションっていつの時代もそんなに変わらないというのが、自分の中ではあるんですね。たぶんブームが一巡しただけなんじゃないかなと思うんです。過激な表現に飽きたらそうじゃないものに行き、またそういうものが飽きたらまた過激なものに行きというループがある。ただ、それが単にループしているだけじゃなくて、時代時代で新しいものが加わってきているんじゃないかなと思います。
―― 先ほどの「GOSICK」のお話にあった、ヨーロッパ的な積み重ねに、日本的な異質なものを入れてミックスする、という構造のようでもありますね。
難波 アニメーションの歴史もそうだと思います。積み重ねと異質なもの、王道と過激、両方があって成り立っていて、お客さんや作り手の思いによって、時代ごとに“再構築”されていく。時代の地層みたいに、バウムクーヘンみたいに大きく重なりながら廻っている。単純にブームが行きつ戻りつだけではなくて、目には見えにくくとも、螺旋階段のように“進化”を続けているんだと思うんですね、日本のアニメーションというのは。アニメーションに限らず、人の歴史がそうであるように。
©2011 桜庭一樹・武田日向・角川書店/GOSICK制作委員会
■著者経歴――渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)
1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。日経ビジネスオンラインにて「アニメから見る時代の欲望」連載。著書に「ワタシの夫は理系クン」(NTT出版)ほか。
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