情報を経験にしていくために
―― 監督は、ヴィクトリカと一弥はどんなところで惹かれ合ったのだと考えていますか。
難波 たぶん、どちらも孤立しているところが、興味を持ったきっかけなのかなと。一弥はひとりでヨーロッパにやって来た東洋人で、学園では「春来たる死神」と呼ばれていて友達がいない。ヴィクトリカは図書館塔に幽閉されている。どちらも独りぼっちの状態で。
でも、ヴィクトリカと一弥は、同じように見えて違っていて。ヴィクトリカにとっては弱い者同士と見えていた一弥が、実はそうではないことに気づくという。ヴィクトリカが外の世界に出られたのは、一弥が連れ出してくれたことがきっかけですよね。ヴィクトリカひとりだけではおそらく閉じこもったままだっただろうと。
作中で、絆や人間愛というところをゴールにするのであれば、ヴィクトリカの成長をじっくり描かないといけないとは思っていました。
©2011 桜庭一樹・武田日向・角川書店/GOSICK制作委員会
―― ヴィクトリカの成長、ですか。
難波 彼女は、幼い頃から屋敷や学園の図書館に幽閉されていて外の世界を知らずにいた。一ヵ所に閉じこもって、本だけを読んで世界を知ったかのような気分になっていた。書物って、「情報」ではあるけれども、「経験」にはならない。その情報を、具体的な形にしたり自分の身になるようにするには、実際に行動をして経験をしなければならないと思うんです。
―― ヴィクトリカは、優秀な頭脳を持っているので完璧に見えがちなんだけれども、そうではないということですね。
難波 変な言い方かもしれないんですけれども、ヴィクトリカって “ニート気質”なところがあって、今の若い人たちと似ている気もするんですね。家にいてパソコンから情報を得ることで、世の中のすべてを知った気になってしまいがちだというところが。
―― なるほど。それは私個人の身に置き換えても、よくわかります(笑)。
難波 自分のことだけしか見えていない彼女を、ラストには、一弥だけを助けるのではなく、一弥に関わるすべてを助けたいと思うような人としての愛を知る女の子になっていく。
そこまで行きつくには、ヴィクトリカの成長が欠かせなかったんですね。
ヴィクトリカの成長に関しては、段階を踏むようにしました。まずは閉じこもっている彼女を、一弥が外の世界に連れ出すことで、彼女が本来持っている、人としての感情が豊かになっていく。そして一緒に過ごしたり事件を追ったりしていくことで、互いのことをよく知っていく。相手の気持ちや立場を想像する力を養って、相手への思いやりになっていく、というような。
特に、ヴィクトリカには、経験とか実感みたいなものを感じさせることが重要だと思いました。彼女はよく、本を読みながら「退屈だ」と言っていますが、それは自分の頭の中だけで世界が完結しているからで、それ以外に世界があることを知らないわけです。そんな彼女を外の世界に連れ出してくれるのが一弥なんですね。
©2011 桜庭一樹・武田日向・角川書店/GOSICK制作委員会
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