この頃、東京でナード寄りの気の利いたイベントがあると、大抵は六本木のスーパーデラックスか、秋葉原のMOGRA(モグラ)だったりする。MOGRAのオープンは2009年の夏。オタク文化の聖地にあって、アニソンやゲーム音楽といった「アキバ系音楽」を中心とする本格的クラブだ。
このMOGRAのオーナーは“もふくちゃん”こと福嶋麻衣子さん。1983年生まれの27歳。挫折や転向も含めてクリエイターとしての王道を歩みながら、最終的に萌えやオタク文化に目覚め、今はその最前線に立つという極めつけにユニークな経歴の持ち主だ。
3歳から習い始めたピアノで芸大に入るも、入学後直ちにピアノを捨て、電子音楽とノイズミュージックにどっぷり浸かり、自作電子楽器の部品を買うため秋葉原へ通ううち、オタク文化にハマるようになったという。在学中に自前のサーバーからライブで発信していたパフォーマンス動画「喪服の裾をからげ※」で、すでにネット上では知られた存在で、その頃からもふくちゃんと呼ばれていた。
※ ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」にある、修道僧の三男が僧服を脱ぎ新しい世界へ飛び出してゆくシーン「僧服の裾をからげ」にちなんだものらしい。当時のアーカイブはまだネット上に残っている
芸大卒業後、現代美術のギャラリー勤務や編集者を経て、ライブバー「ディアステージ」を運営する株式会社モエ・ジャパンの代表取締役となる。そのディアステージが手狭になり、別のビルに移転した跡のスペースを利用して作られたのがMOGRAだ。さらにはディアステージのレーベル・プロダクションである「DearStage Records」「DearStage Productions」を運営し、音楽制作やタレントのマネジメントも行なっている。
そして今度は、4年ぶりにバージョンアップが発表されたVOCALOID3の音声ライブラリ制作も手がけるという。今やテクノロジーとアイドルを結び付ける秋葉原文化の中心的存在である“もふくちゃん”に会いに行ってみた。
アイドル音楽は秋葉原の民族音楽
―― 最初はメイド喫茶から始まったんですよね?
もふくちゃん 立ち上げメンバーのノウハウはメイド喫茶の方が高かったので、最初はメイド喫茶のノウハウを使った飲食事業で生計を立てて、今ようやくプロダクション事業でも盛り上がってきているというところです。最初は秋葉原の音楽という、ほぼ民族音楽に近い、秋葉原にしかない音楽を聴くのが面白かったですね。
―― 秋葉原にしかない民族音楽というのは?
もふくちゃん ネット上で聴いていた秋葉原の音楽と、実際に秋葉原で消化されている音楽とは、微妙にズレがあるんです。
―― どういうふうに違うんですか?
もふくちゃん まだ路上(ストリートライブ)が盛り上がっていた頃は、秋葉原の路上でしか活動していない女の子のCDが結構売れていたり。あとはメイド喫茶発信のCDもあって、メイドさんのアイドル集団とかがありました。
Image from Amazon.co.jp |
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新人メイドは胸胸きゅんきゅ~ん |
―― 「完全メイド宣言」※ですよね。初音ミク以後でもずいぶん変わりませんでしたか?
※ メイド喫茶「@ほぉ~むcafe」発のメイドル(アイドル)ユニット。2005年7月お披露目。2007年2月25解散。
もふくちゃん 作る人が増えましたよね。もともと日本人のクリエイティブな能力の高さは世界一だと思うんですよ。それが初音ミクの登場で、ここまでこじ開けられてしまったかと。たとえばPixivの人たちの絵のうまさって、外国の人から見たらあり得ないレベルだと思うんです。人口の何分の1が絵うまいんだっていう。
―― 高い技術を持て余していたところにネットが出てきて。
もふくちゃん ネットが出てきたときに、これは日本の時代だなと思いましたね。「アニミズム、勝つだろこれは!」みたいな。
(次ページに続く)

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